恋はひと匙の魔法から
「怪我は手?反対か?」
「あ……えっと、怪我は、してなくて……すみません……」
「……うん?」
真剣に心配してくれる西岡に申し訳なくなり、透子はすぐさま言い訳を撤回した。
謎の嘘をついた透子に対して、西岡は虚を突かれたような顔をしてい。それはそうだろう。
西岡は掴んでいた透子の手をテーブルの上に下ろすと、今度は自らの手を透子の手の甲に重ね合わせた。
重なった手から伝わる彼の温度は少し冷たい。
「あのさ、もしかして他に気になる奴でもできた?」
「は……はい?」
突拍子がなさすぎて、透子は何を言われたのかすぐに理解できなかった。目を点にして固まる透子を余所に、西岡は不貞腐れたように目を逸らして早口で話を続ける。
「だって、今度の休みも会いたくなさそうだし、妙な嘘はつくし。俺のこと避けようとしてるだろ。俺があまりにもどうしようもないから嫌になった?」
「ちっ、違います!そうじゃなくて……あっ!」
あらぬ方向に話がいきそうになり、慌てた透子が手と頭を振って否定しようとした。
が、その拍子にテーブルの上のジョッキに肘が当たり、ゴトっと音を立てて倒れてしまう。
ジョッキから零れたウーロン茶がテーブルの上にみるみる広がっていく。透子は慌てておしぼりを手に取り流れを遮ろうとするが、とても受け止めきれない。
流れ出した液体がテーブルの縁を伝って、透子のスカートを濡らした。
こうなっては話どころではない。
西岡はすぐさま店員を呼びつけ、乾いた布巾を何枚か持ってきてもらう。それでなんとかテーブル上の水たまりは全て拭き取れたが、ベージュのスカートには太腿辺りに大きな染みができてしまっていた。かなり目立つ上に、湿って冷たい。
直前の話題は既に透子の頭の中からすっぽ抜けていた。酔ってもいないのに酔っぱらいのような醜態を晒す自分が情けない。
愕然とする透子に、西岡は慰めを含んだ優しい声色で「とりあえず、帰ろうか」と促した。それがまた、粗相をしてしまった小さな子どもへ言い聞かせるようで居た堪れない。
伝票を手に取った西岡の後を、透子は肩を落としながら追いかけるのだった。
「あ……えっと、怪我は、してなくて……すみません……」
「……うん?」
真剣に心配してくれる西岡に申し訳なくなり、透子はすぐさま言い訳を撤回した。
謎の嘘をついた透子に対して、西岡は虚を突かれたような顔をしてい。それはそうだろう。
西岡は掴んでいた透子の手をテーブルの上に下ろすと、今度は自らの手を透子の手の甲に重ね合わせた。
重なった手から伝わる彼の温度は少し冷たい。
「あのさ、もしかして他に気になる奴でもできた?」
「は……はい?」
突拍子がなさすぎて、透子は何を言われたのかすぐに理解できなかった。目を点にして固まる透子を余所に、西岡は不貞腐れたように目を逸らして早口で話を続ける。
「だって、今度の休みも会いたくなさそうだし、妙な嘘はつくし。俺のこと避けようとしてるだろ。俺があまりにもどうしようもないから嫌になった?」
「ちっ、違います!そうじゃなくて……あっ!」
あらぬ方向に話がいきそうになり、慌てた透子が手と頭を振って否定しようとした。
が、その拍子にテーブルの上のジョッキに肘が当たり、ゴトっと音を立てて倒れてしまう。
ジョッキから零れたウーロン茶がテーブルの上にみるみる広がっていく。透子は慌てておしぼりを手に取り流れを遮ろうとするが、とても受け止めきれない。
流れ出した液体がテーブルの縁を伝って、透子のスカートを濡らした。
こうなっては話どころではない。
西岡はすぐさま店員を呼びつけ、乾いた布巾を何枚か持ってきてもらう。それでなんとかテーブル上の水たまりは全て拭き取れたが、ベージュのスカートには太腿辺りに大きな染みができてしまっていた。かなり目立つ上に、湿って冷たい。
直前の話題は既に透子の頭の中からすっぽ抜けていた。酔ってもいないのに酔っぱらいのような醜態を晒す自分が情けない。
愕然とする透子に、西岡は慰めを含んだ優しい声色で「とりあえず、帰ろうか」と促した。それがまた、粗相をしてしまった小さな子どもへ言い聞かせるようで居た堪れない。
伝票を手に取った西岡の後を、透子は肩を落としながら追いかけるのだった。