恋はひと匙の魔法から
「さっきも気になってたんだけど。もしかして、透子って俺が料理目当てで付き合ってるんだと思ってる?」

 西岡が静かな声で問いかけてくる。透子はおどおどしながら顔を上げた。
 ずっと、西岡が好きなのは「料理ができる」透子なのだと思っていた。
 けれども、今はどうなのだろう。
 彼の真摯な眼差しを見つめていると、期待が胸に灯り始める。料理という価値を差し引いた透子自身のことも好いてくれているのではないかという期待が。
 どう伝えようか迷った透子は、結局ありのまま思っていたこと全てを西岡へ話すことにした。
 
「初めは、そう思っていました。西岡さんは、私のお弁当をすごく気に入ってくださったので。その……西岡さんが私を好きになってくれる理由なんて料理くらいしか思い付かなくて……。ずっとそう思っていたんですけど……。でも、今はもしかしたら料理以外の部分も、好きになってもらえているのかなって……」
「当たり前だろ!そんな理由で付き合うわけない」

 西岡が荒々しい口調で言葉を被せてくる。その剣幕に圧倒されながらも、透子の心には歓びが満ちていた。
 信じられない、と歓喜のあまり叫び出してしまいそうになるのを堪える。まさか彼がとっくに、透子自身に価値を見出してくれていたなんて。自分に都合のいい夢でも見ているのかもしれないと自らの頬を抓りたくなった。
 舞い降りた幸せに浸っていた透子だったが、西岡が脱力したように肩を落とし深いため息を吐くのが聞こえて、わたわたと居住まいを正した。

「……怒ってます?」
「怒ってはないけど、透子が俺のことを飯炊き女扱いする最低男だって思ってたことは、ちょっとショックだった」

 力無く笑う西岡に申し訳なくなる。

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