恋はひと匙の魔法から
透子が口籠もっていると、今度は向かいからも不平に満ちた眼差しが飛んでくる。
前からも横からも鋭い視線が突き刺さり、圧力に屈した透子は観念して小さく頷いた。
それを見て困惑したように声を上げたのは千晃だった。
「はっ?えっ?あれ……でも工藤英美里と……」
「ああ、もしかして週刊誌の記事ですか?あれはデマなんです。透子さんにも事実無根だと伝えています。お騒がせして申し訳ありません」
「そ、そうなんですか……。頭も上げていただいて……。ていうか、透子!おまえ、早く言えよ!俺、完全に喧嘩売っちゃったじゃん」
「いや、だって……。でも、晃兄だって私が止めるの全然聞かなかったじゃない」
ここがどこだか二人ともすっかり忘れていた。
小さな火花が散り始め、程度の低い兄妹喧嘩が勃発しそうになった時、混沌としかけたその場を諫めたのは千晃の妻であり、透子の義姉だった。
「はいはい、二人とも落ち着いて。透子ちゃん、もう上がっていいよ。彼氏さん待たせるのも悪いし。今日はありがとね、とーっても助かった!あ、彼氏さん、よかったらこちら召し上がってくださいね。透子ちゃんも後で裏から取っていって」
笑顔の義姉が差し出したのは小さなおにぎり。店では「お結び」と呼んでいて、縁結びと掛けて来店したお客様に感謝の気持ちを伝える「komari」のお通しだ。
具は自家製のねぎ味噌で、このねぎ味噌だけ売ってほしいとお客から声が上がるほどの人気の品である。
義姉は、店内にいた他のお客にも「お騒がせしてすみません」と笑顔で謝りながら、おにぎりと昆布茶を出している。
ここがまだ営業中の店内であることを透子はようやく思い出した。しかも当然のことながら、店内の注目の的になっている。
主に騒いでいたのは透子ではなく千晃なのだが、元凶であることには間違いない。
透子は西岡へ店の外で待っててもらうよう告げると、方々に平身低頭で謝りながらそそくさとバックヤードへ駆け込んだ。
前からも横からも鋭い視線が突き刺さり、圧力に屈した透子は観念して小さく頷いた。
それを見て困惑したように声を上げたのは千晃だった。
「はっ?えっ?あれ……でも工藤英美里と……」
「ああ、もしかして週刊誌の記事ですか?あれはデマなんです。透子さんにも事実無根だと伝えています。お騒がせして申し訳ありません」
「そ、そうなんですか……。頭も上げていただいて……。ていうか、透子!おまえ、早く言えよ!俺、完全に喧嘩売っちゃったじゃん」
「いや、だって……。でも、晃兄だって私が止めるの全然聞かなかったじゃない」
ここがどこだか二人ともすっかり忘れていた。
小さな火花が散り始め、程度の低い兄妹喧嘩が勃発しそうになった時、混沌としかけたその場を諫めたのは千晃の妻であり、透子の義姉だった。
「はいはい、二人とも落ち着いて。透子ちゃん、もう上がっていいよ。彼氏さん待たせるのも悪いし。今日はありがとね、とーっても助かった!あ、彼氏さん、よかったらこちら召し上がってくださいね。透子ちゃんも後で裏から取っていって」
笑顔の義姉が差し出したのは小さなおにぎり。店では「お結び」と呼んでいて、縁結びと掛けて来店したお客様に感謝の気持ちを伝える「komari」のお通しだ。
具は自家製のねぎ味噌で、このねぎ味噌だけ売ってほしいとお客から声が上がるほどの人気の品である。
義姉は、店内にいた他のお客にも「お騒がせしてすみません」と笑顔で謝りながら、おにぎりと昆布茶を出している。
ここがまだ営業中の店内であることを透子はようやく思い出した。しかも当然のことながら、店内の注目の的になっている。
主に騒いでいたのは透子ではなく千晃なのだが、元凶であることには間違いない。
透子は西岡へ店の外で待っててもらうよう告げると、方々に平身低頭で謝りながらそそくさとバックヤードへ駆け込んだ。