恋はひと匙の魔法から
二人は、ホテルの外周に沿った歩道を歩いていく。辺りは公園もあり木が生い茂っていて、月も星も見えない雲に覆われた夜空の下では街灯があっても薄暗い。
一歩足を踏み出すごとに、水溜りから跳ねた雨粒が足元を濡らす。まだそう歩いてはいないが、既につま先まで湿っている。
だが、その不快感も忘れてしまいそうなほどに、とくとくとく、と鼓動が徐々に駆け足になっていくのを透子は感じていた。
狭い折り畳み傘の下、肩が触れる距離に好意を抱く相手がいる。
相合傘でドキドキするなんて中学生でもあるまいし、いい大人が情けない。が、こればかりはコントロールできるものでもない。
透子は弾む鼓動を意識の外へ追い出したく、西岡へ話しかける。
「今日はお疲れ様でした。結構大規模でしたね」
「ああ。収穫はあったけど疲れたな。飯もろくに食べれなかったし」
「……私はちょこちょこつまんじゃいました」
懇親会には軽食も用意されていた。
透子は西岡が話し込んでいる隙に壁際に移動して、少しだけ腹に入れていた。
西岡の分も取り分けて持って行ったものの、彼はひっきりなしに誰かと話していたため結局小さなサンドイッチを二切れくらいしか食べただけだった。
笑いながら謝ると、胡乱な目を向けられる。
「ずるいな」
「えへへ、すみません。でもそこまで食べてないですよ?お腹空いたんで、帰りにラーメンでも食べて帰ろうかなって思ってました」
「ラーメン?」
「うちのアパートの近所に、美味しいお店があるんです。モグナビの星も三・五くらいあって結構人気店なんですよ」
スタンダードな中華そばで、スープがあっさりしていて美味しいのだ。そのためグルメサイトでも評判となっており、店の外に列ができていることもしばしばある。想像していると無性に食べたくなってきた。
自分の想像に食欲をそそられていたところへ、西岡が「意外だな」と呟くものだから透子は首を捻る。
「何がですか?」
「いや……そういう体に悪そうなのも食べるんだな」
「体に悪そうって……普通にラーメンとかポテトとか、何でも食べますよ」
むしろ好き嫌いはない方だと自負している。西岡の言い様が面白く、透子はくすくすと笑った。
「透子って、飲み会とかだと殆ど食べてないし、弁当だから。なんというか……健康志向なのかなって思ってた」
「えぇっ!」
透子は驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた。
ジャンクなものは食べない主義の、健康意識が高い人間だと思われていたらしい。ただ単に大食いを隠していただけだったのだが。
一歩足を踏み出すごとに、水溜りから跳ねた雨粒が足元を濡らす。まだそう歩いてはいないが、既につま先まで湿っている。
だが、その不快感も忘れてしまいそうなほどに、とくとくとく、と鼓動が徐々に駆け足になっていくのを透子は感じていた。
狭い折り畳み傘の下、肩が触れる距離に好意を抱く相手がいる。
相合傘でドキドキするなんて中学生でもあるまいし、いい大人が情けない。が、こればかりはコントロールできるものでもない。
透子は弾む鼓動を意識の外へ追い出したく、西岡へ話しかける。
「今日はお疲れ様でした。結構大規模でしたね」
「ああ。収穫はあったけど疲れたな。飯もろくに食べれなかったし」
「……私はちょこちょこつまんじゃいました」
懇親会には軽食も用意されていた。
透子は西岡が話し込んでいる隙に壁際に移動して、少しだけ腹に入れていた。
西岡の分も取り分けて持って行ったものの、彼はひっきりなしに誰かと話していたため結局小さなサンドイッチを二切れくらいしか食べただけだった。
笑いながら謝ると、胡乱な目を向けられる。
「ずるいな」
「えへへ、すみません。でもそこまで食べてないですよ?お腹空いたんで、帰りにラーメンでも食べて帰ろうかなって思ってました」
「ラーメン?」
「うちのアパートの近所に、美味しいお店があるんです。モグナビの星も三・五くらいあって結構人気店なんですよ」
スタンダードな中華そばで、スープがあっさりしていて美味しいのだ。そのためグルメサイトでも評判となっており、店の外に列ができていることもしばしばある。想像していると無性に食べたくなってきた。
自分の想像に食欲をそそられていたところへ、西岡が「意外だな」と呟くものだから透子は首を捻る。
「何がですか?」
「いや……そういう体に悪そうなのも食べるんだな」
「体に悪そうって……普通にラーメンとかポテトとか、何でも食べますよ」
むしろ好き嫌いはない方だと自負している。西岡の言い様が面白く、透子はくすくすと笑った。
「透子って、飲み会とかだと殆ど食べてないし、弁当だから。なんというか……健康志向なのかなって思ってた」
「えぇっ!」
透子は驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた。
ジャンクなものは食べない主義の、健康意識が高い人間だと思われていたらしい。ただ単に大食いを隠していただけだったのだが。