恋はひと匙の魔法から
西岡が買ってくれたのは、スライスされた苺がふんだんに乗ったタルトケーキだった。ナパージュでコーティングされた苺が艶めいていてとても美味しそうだが、今はそれどころではない。
「あの……さっきはすみません……」
透子がおずおずと口を開く。
するとフォークでタルトを一口大に切り分けていた西岡が顔を上げた。
身を縮めて謝る透子を見て、彼は小さく吹き出した。
「なんでそんなに怯えてんの?」
「いや、えっと……ご迷惑をおかけいたしまして……」
「うん。まあ、それはいいけど。飲みすぎ」
西岡の至極真っ当で冷静な指摘がグサリと透子の胸を突く。そこへ追い打ちをかけるように西岡がため息を吐いた。
透子はこれでもかと身を小さくして、その後に続くであろう苦言を待つ。
「上司とはいえ俺も男なんだから、もっと警戒した方がいいよ」
彼の言葉はいつだって正しく、透子はそれを大抵受け入れていたが、流石にその言葉にはムッとした。
後先考えずその場の勢いで誘ったことは否めない。
だが、何とも思っていないただの上司を休日に二人きりの夕食に誘うほど、透子は純粋無垢ではないのだ。
「別にそんなことくらい分かってますよ」
酔いは冷めたと思っていたが、まだアルコールは、透子の脳を鈍麻させていたのかもしれない。
いつもならひた隠しにするであろう不満が、口を突いて出ていた。
「私、西岡さんと違って、好きでもなんでもない相手を家に誘ったりしないです。西岡さんこそ、危機感足りてないですよ」
唇を尖らし、半眼で睨め付ける。膝の上に乗せた拳をギュッと固く握った。
言ってやった、と謎の達成感で胸がすく程には、透子の気は大きくなっていた。ドキドキと逸る鼓動がやけに大きく聞こえる中、透子は西岡の反応を待った。
だが、当の西岡はきょとんとした表情で目をパチクリとさせている。
そしてあろうことか、前屈みになって肩を震わせながら笑い出した。
「なっ、なんで笑うんですか!」
予想の斜め上をいく西岡の反応に、透子は思わず身を乗り出して詰め寄る。
「ごめん……透子、面白いなって思って……」
「えっ、えぇ……。それ、酷すぎませんか?私、何にも面白いこと言ってないんですけど」
がっくりと肩を落とす透子を尻目に、西岡は未だに笑い続けている。
遠回しに貴方に好意があるんです、と告げたつもりだったが、婉曲すぎたのだろうか……?
不貞腐れた透子は、テレビの電源を付けた。別にテレビが見たかったわけではないが、何か気を紛らわせるものが欲しかった。
「あの……さっきはすみません……」
透子がおずおずと口を開く。
するとフォークでタルトを一口大に切り分けていた西岡が顔を上げた。
身を縮めて謝る透子を見て、彼は小さく吹き出した。
「なんでそんなに怯えてんの?」
「いや、えっと……ご迷惑をおかけいたしまして……」
「うん。まあ、それはいいけど。飲みすぎ」
西岡の至極真っ当で冷静な指摘がグサリと透子の胸を突く。そこへ追い打ちをかけるように西岡がため息を吐いた。
透子はこれでもかと身を小さくして、その後に続くであろう苦言を待つ。
「上司とはいえ俺も男なんだから、もっと警戒した方がいいよ」
彼の言葉はいつだって正しく、透子はそれを大抵受け入れていたが、流石にその言葉にはムッとした。
後先考えずその場の勢いで誘ったことは否めない。
だが、何とも思っていないただの上司を休日に二人きりの夕食に誘うほど、透子は純粋無垢ではないのだ。
「別にそんなことくらい分かってますよ」
酔いは冷めたと思っていたが、まだアルコールは、透子の脳を鈍麻させていたのかもしれない。
いつもならひた隠しにするであろう不満が、口を突いて出ていた。
「私、西岡さんと違って、好きでもなんでもない相手を家に誘ったりしないです。西岡さんこそ、危機感足りてないですよ」
唇を尖らし、半眼で睨め付ける。膝の上に乗せた拳をギュッと固く握った。
言ってやった、と謎の達成感で胸がすく程には、透子の気は大きくなっていた。ドキドキと逸る鼓動がやけに大きく聞こえる中、透子は西岡の反応を待った。
だが、当の西岡はきょとんとした表情で目をパチクリとさせている。
そしてあろうことか、前屈みになって肩を震わせながら笑い出した。
「なっ、なんで笑うんですか!」
予想の斜め上をいく西岡の反応に、透子は思わず身を乗り出して詰め寄る。
「ごめん……透子、面白いなって思って……」
「えっ、えぇ……。それ、酷すぎませんか?私、何にも面白いこと言ってないんですけど」
がっくりと肩を落とす透子を尻目に、西岡は未だに笑い続けている。
遠回しに貴方に好意があるんです、と告げたつもりだったが、婉曲すぎたのだろうか……?
不貞腐れた透子は、テレビの電源を付けた。別にテレビが見たかったわけではないが、何か気を紛らわせるものが欲しかった。