恋はひと匙の魔法から
帰路につく電車へ乗り込んだ後も不穏な動悸はおさまらなかった。
あの記事に書いてあった情報は真実なのだろうか。
もしそうなら、西岡は透子を捨てて、英美里とヨリを戻したということ。透子を好きだと言ってくれた、彼の言葉は嘘だったということになる。
(そんな、そんなことない……。西岡さんは、そんな嘘をついて弄ぶような人じゃない……)
週刊誌のあの記事はデタラメに違いない。しかしそれなら、掲載されていたあのツーショット写真は何なのだろう――
頭の中で思考が錯綜して収拾がつかなくなっていたその最中、降車予定の乗換駅に到着することを知らせるアナウンスが車内に響き渡った。
その駅は、西岡の住むターミナル駅。透子は生唾をごくりと飲み込んだ。
ちらりと腕時計に視線を落とす。時刻は午後九時前。大の大人が眠る時間ではないが、今から会いたいというのは少し憚られる、そんな時間。
自重すべきなのは分かっている。しかし今の透子はそんな常識を働かす冷静さを欠いていた。
彼の口から告げられる真実を思うと怖い気持ちもある。
けれどもそれ以上に会いたかった。会って、抱きしめて、こんなのは嘘だと囁いてほしかった。
決意を固めたように鞄の持ち手をギュッと握り締めた透子は、込み上げる衝動のまま電車を降り足早に改札口へと向かった。
道中で彼に前もって連絡はしなかった。予定もなしにいきなり押しかける後ろめたさがあったからだ。
彼のマンションの前で電話をして、もし都合が悪そうだったら帰ればいい。そう心に言い聞かせ、怖気付いて引き返したくなる足を叱咤する。
ほんの五分だけでも話すことができれば、きっと胸の内に巣食っている不安を払拭できるだろうから。
祈るような気持ちで、もう何度も通った緩やかな坂道を登っていく。坂の中腹に、街灯に照らされた西岡の住むマンションの外観が見えた時だった。
前から一人、女性がこちらへ歩いてくる。さりげなく避けようと車道側へずれようとした。
あの記事に書いてあった情報は真実なのだろうか。
もしそうなら、西岡は透子を捨てて、英美里とヨリを戻したということ。透子を好きだと言ってくれた、彼の言葉は嘘だったということになる。
(そんな、そんなことない……。西岡さんは、そんな嘘をついて弄ぶような人じゃない……)
週刊誌のあの記事はデタラメに違いない。しかしそれなら、掲載されていたあのツーショット写真は何なのだろう――
頭の中で思考が錯綜して収拾がつかなくなっていたその最中、降車予定の乗換駅に到着することを知らせるアナウンスが車内に響き渡った。
その駅は、西岡の住むターミナル駅。透子は生唾をごくりと飲み込んだ。
ちらりと腕時計に視線を落とす。時刻は午後九時前。大の大人が眠る時間ではないが、今から会いたいというのは少し憚られる、そんな時間。
自重すべきなのは分かっている。しかし今の透子はそんな常識を働かす冷静さを欠いていた。
彼の口から告げられる真実を思うと怖い気持ちもある。
けれどもそれ以上に会いたかった。会って、抱きしめて、こんなのは嘘だと囁いてほしかった。
決意を固めたように鞄の持ち手をギュッと握り締めた透子は、込み上げる衝動のまま電車を降り足早に改札口へと向かった。
道中で彼に前もって連絡はしなかった。予定もなしにいきなり押しかける後ろめたさがあったからだ。
彼のマンションの前で電話をして、もし都合が悪そうだったら帰ればいい。そう心に言い聞かせ、怖気付いて引き返したくなる足を叱咤する。
ほんの五分だけでも話すことができれば、きっと胸の内に巣食っている不安を払拭できるだろうから。
祈るような気持ちで、もう何度も通った緩やかな坂道を登っていく。坂の中腹に、街灯に照らされた西岡の住むマンションの外観が見えた時だった。
前から一人、女性がこちらへ歩いてくる。さりげなく避けようと車道側へずれようとした。