恋はひと匙の魔法から

不協和音の末

 翌日、透子は千晃の店で脇目も振らずにひたすら働いていた。
 失恋で負った胸の痛みを誤魔化すために、日がな一日ひたすらに動き回り、おかげで懊悩とする暇もなかった。ズッシリと、疲労感が透子の全身にのしかかる。
 それでもふとした瞬間に昨夜の記憶が脳裏に蘇り、涙が滲みそうになることがしばしばあった。
 
 一人になるとあれこれ思い悩んでしまいそうで、閉店後も散らかっていたバックヤードの整理整頓をし、帰宅を引き伸ばしていた。が、流石に疲労が表に出ていたらしい。
 千晃に「いいから早く帰れ」と叱られ、店から追い出されてしまった。
 そうして大人しく帰った透子の体は、やはり限界を迎えていたようだった。家へ着いた瞬間にどっと疲れが押し寄せてくる。かろうじてベッドへ倒れ込むと、そのまま眠りの世界へ落ちていった。

 再び覚醒した時にはカーテンの隙間から朝日が漏れていた。案の定、寝落ちてしまっていたらしい。
 時計の針は六時前を差していて、透子はのっそりと起き上がった。
 昨日散々働き尽くした体がまだ惰眠を貪りたいと主張しているが、今日は月曜日。そうはいかないのが会社員の宿命だ。
 シャワーも浴びずに寝てしまったため、髪はバサバサで顔も体もベタついている。自室とはいえ、こんなヨレヨレの姿で過ごすのは憚られた。透子は欠伸を飲み込みながら、重い足取りで浴室へと向かうのだった。

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