一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~
 下着を脱がせた彼は、紗英の裸をじっくりと見つめる。
 恥ずかしくなり、紗英は頬を朱に染めた。
「あの……そんなに、見ないでください」
「綺麗だ。貴重な美術品より、きみの体は美しい」
 そんなことは誰にも言われたことがない。
 真剣に呟く悠司に、紗英の胸には驚きとともに喜びが湧き上がった。
 決して自信のある体ではないのに、やっぱり褒めてもらえると嬉しい。たとえお世辞であっても、少しなら自信を持ってもいいのかな、と思えてくる。
 チュ、と紗英の唇にキスをひとつ落とした悠司は、膝立ちになって自らの服を脱ぐ。
 ジャケットとベストを脱ぎ捨て、するりとネクタイをほどくと、純白のシャツの釦を外す。
 潔く裸になる悠司を、紗英はどきどきしながら見つめていた。
 露わにされた彼の上半身は、神が造形したのかと見まごうばかりの、均整のとれた肉体だった。ほどよくついた筋肉はしなやかで、雄の猛々しさを滲ませている。腹筋は綺麗に割れていた。
 紗英が見惚れていると、ベルトを外した悠司は口元に弧を描く。
「俺の体、好き?」
「え、えっと……はい」
 紗英は小さく頷いた。
 こんなに素敵な肉体を嫌いな人なんていないだろう。
 だけど悠司はその答えに、不服げに眉を跳ね上げる。
 彼はまろやかな愛撫を与えながら、低い声で囁いた。
「好き、って言ってほしいな」
「ん……好き、です」
「俺も。好きだよ」
 体の話だと思うが、好きと言い合うだけで、なんだか恋人のような甘い気分になり、心が温かくなる。
 とろとろに蕩けた体は、腰の奥から蜜を滲ませる。
 愛撫されてこんなふうに感じるなんて、紗英には未知のことだった。
 それくらい悠司の抱き方は優しくて情熱的で、心と体を満たした。
 空虚だった心身が満たされていく感覚に、恍惚として甘い声が漏れる。
 こんなに甘えた声が出るなんて、紗英は自分でも信じられなかった。
 やがて、ともに達したふたりは、しばらくの間、きつく抱き合っていた。
 荒い息遣いが耳に心地いい。彼のしっとりと汗が滲んだ肌にも愛しさが湧いた。
 ややあって、頂点から下りたふたりの息が整う。
 少し顔を上げた悠司は、双眸を細めて紗英を覗き込んだ。
「最高だ。きみの中は楽園だよ」
「私も……こんなに感じたの、初めて」
 満足げな息を吐いた悠司は、体を起こす。
 事が済んだから、離れるのは当然だった。
 それを紗英は、寂しいと思ってしまった。
 だがコンドームを外して事後処理を済ませた悠司は、紗英の横に寝そべる。彼は強靱な腕を伸ばして、紗英の頭の下に差し入れると、腕枕をした。
 空いたほうの手で紗英と手をつなぐ。悠司は甘く掠れた声で囁く。
「好きだよ」
「……えっ」
 紗英は思わず目を瞬かせて驚いてしまった。
 けれど、すぐに思い直す。
 事後の『好き』は、ベッドをともにした相手への気遣いだろう。
 だって紗英は事後だろうがそうでなかろうが、誰にも『好き』なんて言われたことがない。彼氏だろうと、そんな台詞を言ってくれる人はいなかった。
 だから付き合ってもいない悠司が『好き』と言うのは、きっと気遣いという理由以外にない。
 そう解釈して、高鳴りかけた胸の鼓動は急速に落ち着きを取り戻した。
 悠司は愛しげに目を細めて、紗英を見つめている。
「私も……」
 好き、と言いたい。
 でもなぜか言えなかった。
 先ほどは、体が好きという意味だから言えたのであって、悠司自身を好きと言ってしまったら、後戻りできない気がしたから。
 そうしているうちに眠気に襲われて、紗英は眠りの淵に落ちていった。
 彼の熱い体温は紗英が眠ってもずっと、離れなかった。
 すうすうと安らかな寝息を立てている紗英に、悠司はそっと呟く。
「おやすみ」
 つないだふたりの手は、しっかりと握られていた。

 ゆっくりと意識が浮上する。瞼に明るい陽射しを感じて紗英が目を開けると、いつもの自室の天井とは異なるのに気づいた。
 あれ……ここ、どこ?
 純白の広い天井に心の中で首を捻っていると、体が熱いもので包まれていて、はっとする。
「えっ……⁉」
 横を見ると、悠司の端麗な寝顔が間近にあった。
 彼の強靱な腕に、裸の体が抱き込まれているのだ。
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