一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~
あのベッドは、元カレと浮気相手が致したままではないか。だからその夜は床で寝たというのに、処理するのをすっかり忘れていた。
「なんで私、忘れてたの⁉ シーツと布団を洗濯しないと!」
紗英は慌ててベッドから布団とシーツを剥がした。
先ほどはベッドでごろごろと転がり、悠司との一夜を思い出して悶々としてしまった。
あまりにも昨夜のラグジュアリーホテルでの出来事が濃密で、非日常の世界に浸りきったので、浮気のことなどすっかり忘れていたのだ。
ゴゥンゴゥンと洗濯機が回る音を聞きながら、紗英は悠司の優しい眼差しを思い出す。
彼が触れた体の至るところが、まだ熱を持っているようだ。
「そういえば、悠司さんは勝負しようだとかバーで言ってたけど……。あれってどういうことなのかな。酔ってたから、よくわからなかったな……」
ぼんやりと、彼との優雅で満ち足りた時間を思い出す。
豪奢なレストランに天空のバーでの煌めく夜景、そしてベッドでの情熱的な悠司のキスとセックス……すべてが最高だった。
けれどすぐに、月曜日にどんな顔をして悠司に会えばいいのかという問題に直面して、紗英は頭を悩ませるのだった。
明けて、月曜日――。
早めに出社した紗英は、誰もいないフロアに入り、自分のデスクに着いた。
もしもエレベーターで悠司と鉢合わせたら非常に気まずいので、早めに来たのである。
予想通り、課長のデスクはまだ無人だ。
紗英がパソコンを立ち上げてメールチェックしていると、次々に社員が出社してくる。その中に悠司の姿を目の端で見つけるが、パソコンに集中しているふりをしてやり過ごした。
だが、悠司はあえて紗英のデスクに近づいてくる。
「おはよう、海東さん」
「あ、お、おはようございます。ゆ――桐島課長」
悠司さん、と言いそうになり、内心で焦る。
にやりと口端を引き上げた悠司は、ぽんと紗英の頭を撫でるように手を置く。
どきりとしたが、彼の手はすぐに離れていった。
それでいいはずなのに、なんとなく寂しく思ってしまったのはなぜだろう。
紗英は自分の頭に手をやり、悠司が触れた感触を確かめた。
だが、こちらをじっと見ている木村に気づき、はっとして手を下ろす。
いけない。仕事に集中しないと――。
悠司とは一夜限りの火遊びなのだから、これ以上なにかあるわけもない。彼からなにか言ってくるはずもない。これでいいのだ。忘れようと、自分で決めたのだから。
ホテルの部屋から黙って出てきたことを、悠司はなにも言わなかった。
それでいいのだ。悠司のほうも、なかったこととして処理しているのだろう。
紗英は雑念を追い払い、仕事に没頭した。
昼過ぎに経理課に届ける書類があったので、席を立つ。
書類を持ってフロアを出る。廊下を渡り、角を曲がるとエレベーターホールだ。
だが、ホールに辿り着く直前に、伸びてきた長い腕に行く手を遮られる。
「えっ……⁉」
驚いて振り向くと、そこには悠司がいた。
彼は獲物を捕らえた猛禽類のごとく、炯々と目を光らせている。
「ヤリ逃げはひどいな」
「ヤ、ヤリ……そんなつもりじゃ……」
彼の腕の檻に閉じ込められ、壁に背をつけた紗英は困惑する。
ホテルの部屋から逃げたのは確かだが、ふたりは恋人でもなんでもない。上司と寝てしまった事実に混乱した紗英は、あれ以上、その場にいられなかった。
キスしそうなほど顔を近づけた悠司は、真摯な表情で問い質す。
「じゃあ、どういうつもりだったんだ?」
「……あの、そのことはなかったことにするのでは……?」
そう言うと、悠司は眉をひそめる。
「なかったことにはできないよ。きみは俺に抱かれた。俺に好意があったから、抱かれたんじゃないのか?」
「ちょっ……待ってください! 会社なので……」
廊下には誰もいないとはいえ、社内で堂々とそんなことを発言されては困る。
慌てる紗英に対して、悠司はいっさい動揺しなかった。
「紗英は、なかったことにしたいの?」
「……そういうことですよね? 私たちは一夜限りの関係ですし……」
そのとき、廊下に足音が響いてきた。
はっとした紗英は思わず、手にしていた書類を悠司に押しつける。
「課長、こちらが先ほどお話しした書類になります」
「ああ……ありがとう」
悠司は書類を受け取るふりをしたが、壁についた手は下ろさない。
だが通り過ぎた男性社員は急いでいるようで、こちらを見ることなく、エレベーターホールへ向かっていった。
ふう、と息をついた紗英は書類を腕に抱える。
ここで込み入った話をするわけにはいかない。
それなのに悠司は腕の檻から紗英を解放しようとしない。
この肉食御曹司をどうにかして説得しなければならなかった。
「先日のことですが、この場で話す内容ではないので、場所を変えたいです」
「なんで私、忘れてたの⁉ シーツと布団を洗濯しないと!」
紗英は慌ててベッドから布団とシーツを剥がした。
先ほどはベッドでごろごろと転がり、悠司との一夜を思い出して悶々としてしまった。
あまりにも昨夜のラグジュアリーホテルでの出来事が濃密で、非日常の世界に浸りきったので、浮気のことなどすっかり忘れていたのだ。
ゴゥンゴゥンと洗濯機が回る音を聞きながら、紗英は悠司の優しい眼差しを思い出す。
彼が触れた体の至るところが、まだ熱を持っているようだ。
「そういえば、悠司さんは勝負しようだとかバーで言ってたけど……。あれってどういうことなのかな。酔ってたから、よくわからなかったな……」
ぼんやりと、彼との優雅で満ち足りた時間を思い出す。
豪奢なレストランに天空のバーでの煌めく夜景、そしてベッドでの情熱的な悠司のキスとセックス……すべてが最高だった。
けれどすぐに、月曜日にどんな顔をして悠司に会えばいいのかという問題に直面して、紗英は頭を悩ませるのだった。
明けて、月曜日――。
早めに出社した紗英は、誰もいないフロアに入り、自分のデスクに着いた。
もしもエレベーターで悠司と鉢合わせたら非常に気まずいので、早めに来たのである。
予想通り、課長のデスクはまだ無人だ。
紗英がパソコンを立ち上げてメールチェックしていると、次々に社員が出社してくる。その中に悠司の姿を目の端で見つけるが、パソコンに集中しているふりをしてやり過ごした。
だが、悠司はあえて紗英のデスクに近づいてくる。
「おはよう、海東さん」
「あ、お、おはようございます。ゆ――桐島課長」
悠司さん、と言いそうになり、内心で焦る。
にやりと口端を引き上げた悠司は、ぽんと紗英の頭を撫でるように手を置く。
どきりとしたが、彼の手はすぐに離れていった。
それでいいはずなのに、なんとなく寂しく思ってしまったのはなぜだろう。
紗英は自分の頭に手をやり、悠司が触れた感触を確かめた。
だが、こちらをじっと見ている木村に気づき、はっとして手を下ろす。
いけない。仕事に集中しないと――。
悠司とは一夜限りの火遊びなのだから、これ以上なにかあるわけもない。彼からなにか言ってくるはずもない。これでいいのだ。忘れようと、自分で決めたのだから。
ホテルの部屋から黙って出てきたことを、悠司はなにも言わなかった。
それでいいのだ。悠司のほうも、なかったこととして処理しているのだろう。
紗英は雑念を追い払い、仕事に没頭した。
昼過ぎに経理課に届ける書類があったので、席を立つ。
書類を持ってフロアを出る。廊下を渡り、角を曲がるとエレベーターホールだ。
だが、ホールに辿り着く直前に、伸びてきた長い腕に行く手を遮られる。
「えっ……⁉」
驚いて振り向くと、そこには悠司がいた。
彼は獲物を捕らえた猛禽類のごとく、炯々と目を光らせている。
「ヤリ逃げはひどいな」
「ヤ、ヤリ……そんなつもりじゃ……」
彼の腕の檻に閉じ込められ、壁に背をつけた紗英は困惑する。
ホテルの部屋から逃げたのは確かだが、ふたりは恋人でもなんでもない。上司と寝てしまった事実に混乱した紗英は、あれ以上、その場にいられなかった。
キスしそうなほど顔を近づけた悠司は、真摯な表情で問い質す。
「じゃあ、どういうつもりだったんだ?」
「……あの、そのことはなかったことにするのでは……?」
そう言うと、悠司は眉をひそめる。
「なかったことにはできないよ。きみは俺に抱かれた。俺に好意があったから、抱かれたんじゃないのか?」
「ちょっ……待ってください! 会社なので……」
廊下には誰もいないとはいえ、社内で堂々とそんなことを発言されては困る。
慌てる紗英に対して、悠司はいっさい動揺しなかった。
「紗英は、なかったことにしたいの?」
「……そういうことですよね? 私たちは一夜限りの関係ですし……」
そのとき、廊下に足音が響いてきた。
はっとした紗英は思わず、手にしていた書類を悠司に押しつける。
「課長、こちらが先ほどお話しした書類になります」
「ああ……ありがとう」
悠司は書類を受け取るふりをしたが、壁についた手は下ろさない。
だが通り過ぎた男性社員は急いでいるようで、こちらを見ることなく、エレベーターホールへ向かっていった。
ふう、と息をついた紗英は書類を腕に抱える。
ここで込み入った話をするわけにはいかない。
それなのに悠司は腕の檻から紗英を解放しようとしない。
この肉食御曹司をどうにかして説得しなければならなかった。
「先日のことですが、この場で話す内容ではないので、場所を変えたいです」