一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~
「好きだよ」
ぼうっとした紗英は、真摯な双眸で告げられたその言葉に酔いしれる。
なんて心地いい響きなのだろう。
悠司さんが、私を好き……。
けれど次の瞬間、はっとして、取り決めた恋人契約について思い出した。
悠司が「好き」と言うのは、かりそめの恋人なのだから、契約のうちなのだ。本気ではない。
私もあなたが好き、と言えたら、どんなにいいだろう。
けれど紗英は戸惑うばかりで、なにも返せなかった。
悠司のことはもちろん嫌いではない。もしかしたら、好きかもしれない。
だが自分の気持ちにも整理がついていないのに、恋人契約しているという理由で恋情を口にするのは、なんだか抵抗があった。
うつむいている紗英を、悠司はなにも言わずに肩を抱いていた。
そのとき、強い風が吹いてきた。
悠司は紗英を守るように、そっと腕で包み込む。
「風邪を引いたらいけない。そろそろ戻ろうか」
「そうですね」
悠司が助手席側のドアを開けたので、紗英は車に乗り込んだ。回り込んだ彼も運転席に着く。
だが悠司はすぐにエンジンをかけず、ジャケットの懐からなにかを取り出した。
「これ」
「……なんでしょう?」
てのひらにのるほどの白い紙袋を手渡される。
ふかふかしたものが入っているのが、手触りでわかった。
「開けていいですか?」
「うん」
紙袋を開けると、そこに入っていたのは、ピンクのシュシュだった。
キラキラしたサテン生地が、ウィンドウから射し込むかすかな光に輝く。
「あの、これは……」
「プレゼントだ。ピンクが好きみたいだから」
職場で、シュシュの名称を教えたことを悠司は覚えていたのだ。さらに体を重ねたときの下着の色がピンクだったので、それになぞらえたのだろう。
もしかしたら彼は、みすぼらしいライトグリーンのシュシュを見て、哀れに思ったのかもしれない。
でも、プレゼントをもらえたことは素直に嬉しかった。
「もらっていいんですか?」
「もちろん。つけてあげるよ」
ピンク色のシュシュを手にした悠司は、優しく紗英の髪をかき寄せる。
紗英は彼が髪をまとめやすいよう、少し頭を前に傾けた。
悠司の指先がうなじに触れて、くすぐったい。
まとめた髪の束をシュシュに通した悠司は、シュシュを捻ってもう一度髪を通した。
「はい、できた。とても可愛いな」
「シュシュが……ですか?」
「違うよ。きみが可愛いと言ってる」
フッと笑った悠司は、愛しげに目を細めて紗英を見つめた。
可愛いと言われて、紗英の顔が朱に染まる。
「ありがとうございます。シュシュ、大切にしますね」
「うん。気に入ってくれたなら嬉しいよ」
エンジンをかけた悠司は、ライトを点灯した。
車はゆっくりと、煌めく夜景を残して走り出す。
紗英はそっと、髪の後ろに結ばれたシュシュに指先で触れた。
新品のサテンのシュシュはさらりとしていて、とても肌触りがよかった。
プレゼントをもらえるなんて思わなくて、びっくりしたけれど、今も心がふわふわと浮き立っていた。
そうだ。悠司さんにお返ししたいな……なにがいいかな……。
なにが欲しいですかと訊ねるのも無粋な気がするので、紗英はあれこれと考えた。
突然高級品を贈ったら悠司は驚いてしまうだろうから、シュシュの値段に見合ったものがよい。ハンカチとか、キーケース、もしくは靴下……なんて、ちょっと生活感が出てしまうだろうか。
ちらりと悠司の顔を見ると、次々と移りゆく街灯に照らされた横顔に陰影が刻まれていた。
「今日は一日付き合ってくれて、ありがとう。とても楽しかったよ」
「私のほうこそ、ありがとうございました。悠司さんのおかげで思い出に残る一日を過ごせました」
「思い出か……。なんだか今日が最後みたいな言い方するね」
「えっ? 最後じゃ……ないんですか?」
かりそめの恋人なのだから、一度きりのデートかと思っていた。
もしかして、次もあるのだろうか。
悠司は焦ったように前のめりになると、苦笑を零した。
「おいおい。一回だけなんて言ってないだろ」
「そうですけど……」
じゃあ、何回あるの? とは、怖くて聞けなかった。
ぼうっとした紗英は、真摯な双眸で告げられたその言葉に酔いしれる。
なんて心地いい響きなのだろう。
悠司さんが、私を好き……。
けれど次の瞬間、はっとして、取り決めた恋人契約について思い出した。
悠司が「好き」と言うのは、かりそめの恋人なのだから、契約のうちなのだ。本気ではない。
私もあなたが好き、と言えたら、どんなにいいだろう。
けれど紗英は戸惑うばかりで、なにも返せなかった。
悠司のことはもちろん嫌いではない。もしかしたら、好きかもしれない。
だが自分の気持ちにも整理がついていないのに、恋人契約しているという理由で恋情を口にするのは、なんだか抵抗があった。
うつむいている紗英を、悠司はなにも言わずに肩を抱いていた。
そのとき、強い風が吹いてきた。
悠司は紗英を守るように、そっと腕で包み込む。
「風邪を引いたらいけない。そろそろ戻ろうか」
「そうですね」
悠司が助手席側のドアを開けたので、紗英は車に乗り込んだ。回り込んだ彼も運転席に着く。
だが悠司はすぐにエンジンをかけず、ジャケットの懐からなにかを取り出した。
「これ」
「……なんでしょう?」
てのひらにのるほどの白い紙袋を手渡される。
ふかふかしたものが入っているのが、手触りでわかった。
「開けていいですか?」
「うん」
紙袋を開けると、そこに入っていたのは、ピンクのシュシュだった。
キラキラしたサテン生地が、ウィンドウから射し込むかすかな光に輝く。
「あの、これは……」
「プレゼントだ。ピンクが好きみたいだから」
職場で、シュシュの名称を教えたことを悠司は覚えていたのだ。さらに体を重ねたときの下着の色がピンクだったので、それになぞらえたのだろう。
もしかしたら彼は、みすぼらしいライトグリーンのシュシュを見て、哀れに思ったのかもしれない。
でも、プレゼントをもらえたことは素直に嬉しかった。
「もらっていいんですか?」
「もちろん。つけてあげるよ」
ピンク色のシュシュを手にした悠司は、優しく紗英の髪をかき寄せる。
紗英は彼が髪をまとめやすいよう、少し頭を前に傾けた。
悠司の指先がうなじに触れて、くすぐったい。
まとめた髪の束をシュシュに通した悠司は、シュシュを捻ってもう一度髪を通した。
「はい、できた。とても可愛いな」
「シュシュが……ですか?」
「違うよ。きみが可愛いと言ってる」
フッと笑った悠司は、愛しげに目を細めて紗英を見つめた。
可愛いと言われて、紗英の顔が朱に染まる。
「ありがとうございます。シュシュ、大切にしますね」
「うん。気に入ってくれたなら嬉しいよ」
エンジンをかけた悠司は、ライトを点灯した。
車はゆっくりと、煌めく夜景を残して走り出す。
紗英はそっと、髪の後ろに結ばれたシュシュに指先で触れた。
新品のサテンのシュシュはさらりとしていて、とても肌触りがよかった。
プレゼントをもらえるなんて思わなくて、びっくりしたけれど、今も心がふわふわと浮き立っていた。
そうだ。悠司さんにお返ししたいな……なにがいいかな……。
なにが欲しいですかと訊ねるのも無粋な気がするので、紗英はあれこれと考えた。
突然高級品を贈ったら悠司は驚いてしまうだろうから、シュシュの値段に見合ったものがよい。ハンカチとか、キーケース、もしくは靴下……なんて、ちょっと生活感が出てしまうだろうか。
ちらりと悠司の顔を見ると、次々と移りゆく街灯に照らされた横顔に陰影が刻まれていた。
「今日は一日付き合ってくれて、ありがとう。とても楽しかったよ」
「私のほうこそ、ありがとうございました。悠司さんのおかげで思い出に残る一日を過ごせました」
「思い出か……。なんだか今日が最後みたいな言い方するね」
「えっ? 最後じゃ……ないんですか?」
かりそめの恋人なのだから、一度きりのデートかと思っていた。
もしかして、次もあるのだろうか。
悠司は焦ったように前のめりになると、苦笑を零した。
「おいおい。一回だけなんて言ってないだろ」
「そうですけど……」
じゃあ、何回あるの? とは、怖くて聞けなかった。