一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~
「入居者がいたら、その家族が伊豆を観光することになる。だから今回は観光して楽しいかという点も気にかけないといけない」
「なるほど。わかりました」
到着した新幹線に乗り込み、指定席の座席に着く。ふたりの席は、もちろん並び合っていた。悠司は自分の分と紗英のキャリーケースを荷物棚にしまうと、彼女を窓際の席に促す。「私が窓際でいいんですか?」
「もちろん。景色を見ながらきみの顔も見ていられるという最大のメリットが俺にはある」
冗談なのか本気なのかわからないが、苦笑した紗英は窓際のシートに腰を下ろした。
悠司は購入したお茶と弁当が入ったビニール袋を、紗英に手渡す。
「あ、ありがとうございます」
もちろん悠司の分もある。駅の売店で買っておいてくれたのだ。
「どういたしまして。経費の内だ」
「そうでしょうね。……これは、経費ではないんですけど……」
「ん?」
渡すなら、さっさと渡してしまおうと思った紗英は、鞄から薄いピンク色の紙袋を取り出した。それを隣の席の悠司の膝に、そっとのせる。
「これは?」
「……シュシュのお返しです」
「開けてもいいか?」
「どうぞ」
笑みを浮かべた悠司は嬉しそうに紙袋を開ける。
彼の反応が怖くなり、紗英は小さくなっていた。
悠司さん、喜んでくれるかな……?
デパートの紳士用コーナーで、あれでもないこれでもないと迷った結果、無難なものに落ち着いてしまった。
ちらりと見ると、悠司は青いハンカチを手にして、満面の笑みを見せている。
広げると、チェック柄のなんということはない無難なデザインだ。あまり奇抜でもよくないと思い、ありきたりなものにした。
「俺のために? ありがとう。大切にするよ」
「……よかったら、使ってください」
丁寧にハンカチを折りたたんだ悠司は、スラックスのポケットに入れる。
とりあえず、使ってもらえるようでよかった。
ほっとした紗英は、もらったペットボトルのお茶のキャップを開けた。
新幹線は予定時刻通りに発車すると、ややあって伊豆付近の駅に到着した。
駅を降りると、ふたりはレンタカーを借りて、伊豆の各地を回った。
まずは新規施設を視察して、工事の進捗状況を確認する。介護施設は小高い丘の上にある風光明媚な場所だった。とても眺望がよく、気持ちよく過ごせそうなところだ。工事の進捗にも問題はなく、予定通りのスケジュールでオープンを迎えられそうだった。
さらに訪問を予定していた工房や農家を見学して交渉する。道なりにあるレストランにも足を運び、実際に食事をして味と雰囲気を確かめた。
伊豆はどこも落ち着いた雰囲気の漂う土地で、観光地なのに静かだ。繁忙期はそうはいかないかもしれないが、入居者もその家族も、きっと気に入ってくれるだろう。
一日を終えて予定していた行程をすべて済ませたふたりは、車で宿泊するホテルへ向かっていた。疲れてはいたが、収穫は充分にあった。
「伊豆は素敵な土地ですね。都心を離れて静かに過ごすとしたら、最高の場所です」
「そうだな。問題はほかの施設より若干値が張るところくらいか。だが問い合わせの件数を考えても、注目されている場所であることは間違いない。なんとしても成功させたいな」
「そうですね。ええと、入居の日取りは……」
書類を捲り出した紗英を、悠司は止める。
「続きは明日にしよう。そろそろホテルに着くぞ」
「はい」
紗英が書類を鞄にしまうと、車はホテルの車寄せに到着した。
出張といえばビジネスホテルが定番だが、やたらとラグジュアリー感のあるホテルである。
車に近づいたドアマンが慇懃に出迎えて、ポーターがキャリーケースを下ろしている。
ホテルの壮麗な玄関の向こうには、煌めくシャンデリアにより、キラキラとロビーが輝いていた。
想像とかけ離れていたので、紗英は目を丸くした。
「……随分と豪華なホテルですね」
「ここは俺が個人的に予約したホテルだ。ビジネスホテルは狭すぎるから、遠慮したい」
「は、はあ。ということは、私だけビジネスホテルに泊まるんでしょうか?」
さすが御曹司の悠司は、狭いビジネスホテルなどには泊まれないらしい。
もしかして、紗英だけ経費分のビジネスホテルだとか、そういうことだろうか。
ところが悠司は不機嫌そうな顔をして、こちらを見た。
「なにを言ってるんだ。きみも当然、俺と一緒の部屋だ。ビジネスホテルは予約していない」
「……えっ⁉ 同室なんですか?」
「スイートルームが一室しかないと予約の段階で告げられた。一室しかないものは仕方ないだろう」
「……そうですね」
なにも驚くことはないのかもしれない。
紗英はすでに悠司と体を重ねた仲だ。
「なるほど。わかりました」
到着した新幹線に乗り込み、指定席の座席に着く。ふたりの席は、もちろん並び合っていた。悠司は自分の分と紗英のキャリーケースを荷物棚にしまうと、彼女を窓際の席に促す。「私が窓際でいいんですか?」
「もちろん。景色を見ながらきみの顔も見ていられるという最大のメリットが俺にはある」
冗談なのか本気なのかわからないが、苦笑した紗英は窓際のシートに腰を下ろした。
悠司は購入したお茶と弁当が入ったビニール袋を、紗英に手渡す。
「あ、ありがとうございます」
もちろん悠司の分もある。駅の売店で買っておいてくれたのだ。
「どういたしまして。経費の内だ」
「そうでしょうね。……これは、経費ではないんですけど……」
「ん?」
渡すなら、さっさと渡してしまおうと思った紗英は、鞄から薄いピンク色の紙袋を取り出した。それを隣の席の悠司の膝に、そっとのせる。
「これは?」
「……シュシュのお返しです」
「開けてもいいか?」
「どうぞ」
笑みを浮かべた悠司は嬉しそうに紙袋を開ける。
彼の反応が怖くなり、紗英は小さくなっていた。
悠司さん、喜んでくれるかな……?
デパートの紳士用コーナーで、あれでもないこれでもないと迷った結果、無難なものに落ち着いてしまった。
ちらりと見ると、悠司は青いハンカチを手にして、満面の笑みを見せている。
広げると、チェック柄のなんということはない無難なデザインだ。あまり奇抜でもよくないと思い、ありきたりなものにした。
「俺のために? ありがとう。大切にするよ」
「……よかったら、使ってください」
丁寧にハンカチを折りたたんだ悠司は、スラックスのポケットに入れる。
とりあえず、使ってもらえるようでよかった。
ほっとした紗英は、もらったペットボトルのお茶のキャップを開けた。
新幹線は予定時刻通りに発車すると、ややあって伊豆付近の駅に到着した。
駅を降りると、ふたりはレンタカーを借りて、伊豆の各地を回った。
まずは新規施設を視察して、工事の進捗状況を確認する。介護施設は小高い丘の上にある風光明媚な場所だった。とても眺望がよく、気持ちよく過ごせそうなところだ。工事の進捗にも問題はなく、予定通りのスケジュールでオープンを迎えられそうだった。
さらに訪問を予定していた工房や農家を見学して交渉する。道なりにあるレストランにも足を運び、実際に食事をして味と雰囲気を確かめた。
伊豆はどこも落ち着いた雰囲気の漂う土地で、観光地なのに静かだ。繁忙期はそうはいかないかもしれないが、入居者もその家族も、きっと気に入ってくれるだろう。
一日を終えて予定していた行程をすべて済ませたふたりは、車で宿泊するホテルへ向かっていた。疲れてはいたが、収穫は充分にあった。
「伊豆は素敵な土地ですね。都心を離れて静かに過ごすとしたら、最高の場所です」
「そうだな。問題はほかの施設より若干値が張るところくらいか。だが問い合わせの件数を考えても、注目されている場所であることは間違いない。なんとしても成功させたいな」
「そうですね。ええと、入居の日取りは……」
書類を捲り出した紗英を、悠司は止める。
「続きは明日にしよう。そろそろホテルに着くぞ」
「はい」
紗英が書類を鞄にしまうと、車はホテルの車寄せに到着した。
出張といえばビジネスホテルが定番だが、やたらとラグジュアリー感のあるホテルである。
車に近づいたドアマンが慇懃に出迎えて、ポーターがキャリーケースを下ろしている。
ホテルの壮麗な玄関の向こうには、煌めくシャンデリアにより、キラキラとロビーが輝いていた。
想像とかけ離れていたので、紗英は目を丸くした。
「……随分と豪華なホテルですね」
「ここは俺が個人的に予約したホテルだ。ビジネスホテルは狭すぎるから、遠慮したい」
「は、はあ。ということは、私だけビジネスホテルに泊まるんでしょうか?」
さすが御曹司の悠司は、狭いビジネスホテルなどには泊まれないらしい。
もしかして、紗英だけ経費分のビジネスホテルだとか、そういうことだろうか。
ところが悠司は不機嫌そうな顔をして、こちらを見た。
「なにを言ってるんだ。きみも当然、俺と一緒の部屋だ。ビジネスホテルは予約していない」
「……えっ⁉ 同室なんですか?」
「スイートルームが一室しかないと予約の段階で告げられた。一室しかないものは仕方ないだろう」
「……そうですね」
なにも驚くことはないのかもしれない。
紗英はすでに悠司と体を重ねた仲だ。