一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~
フッと、悠司は木村に向かって鼻で笑った。
木村は視線をうろうろとさまよわせている。
悠司は文書が入っていた封筒を掲げた。
「消印によると、この封筒が投函されたのは十月七日、つまりおとといの土曜日だ。おとといは、海東さんはずっと俺と一緒に過ごしている。彼女が約百通もの封書を投函するようなことをしていないのは、俺が証明する」
社員たちの間に、ざわめきが満ちる。
紗英は驚きに目を見開いた。
紗英の潔白を証明するためとはいえ、自分たちが特別な関係にあると、悠司が認めたからだ。男女が休みの日にずっと一緒に過ごしているということは、恋人であると表明したも同然である。
瞠目した木村は、なぜか紗英に向かってわめいた。
「そんなのアリバイにならないわ! 桐島課長が海東さんを庇おうとして、嘘をついてるかもしれないじゃないですか!」
ふと紗英は疑問に思った。
木村はどうあっても紗英を犯人にしたいようだが、なぜ彼女はそんなに必死になるのだろう。
そういえば、文書のファイルを発見したとき、まるで彼女はあらかじめそこにあるのを知っているかのように、スムーズに見つけていた。
そのとき、気まずそうな顔をした山岡が手を上げる。
「あのう……ぼくは今朝、仕事があって六時に出社したんですけど、すでに木村さんがいたんですよね。いつも遅刻ぎみなのに、どうしたのかなと思って、隠れて見ていたんですけど……」
そこに居合わせた全員が、ぼそぼそと話す山岡に注目した。
彼は夏頃に腰の手術を終えて無事に退院したが、体のことを考えて時短勤務にしている。そのため、早めに出勤して仕事をすることも度々あった。
木村は硬直して、山岡を見つめている。
「彼女、海東さんのデスクでパソコンをいじっていたんです。終わったらUSBメモリを抜いてたんですけど、あれって、この文書のファイルを移してたんじゃないですかね……」
つまり、文書を作成した犯人は木村であって、その罪を紗英に着せようとしていると、山岡は言っている。
木村の顔が真っ赤に染まった。
彼女は噛みつくように山岡に吠える。
「嘘よ! そんなこと知らないわ。妄想はやめてちょうだい!」
本部長は冷静な声で木村に訊ねた。
「木村さん。きみのUSBメモリを見せてくれ。バッグに入っている私物も含めて、すべて提出するんだ」
ごくりと唾を呑み込んだ木村は、うつむいた。先ほどまで紗英を糾弾していた勢いはすっかり失われ、彼女の顔は青ざめている。
「……できません」
「なぜだね? 山岡くんは、きみが海東さんに濡れ衣を着せていると証言している。そもそも海東さんは伊豆の担当者なので、このような怪文書をばらまくメリットがない」
「わたしにはあるっていうんですか⁉ わたしだって、そんなことするメリットありません!」
「では、それを証明してくれ。私物も含めて、USBメモリを見せてくれるね。それから土曜日にきみがなにをしていたのか、行動を証明できるものを提出してほしい。コンビニのレシートなどはあるかな?」
ぎりっと奥歯を噛みしめた木村は、怨念のように呟いた。
「私が悪いんじゃない……私じゃ……」
木村のバッグを確認した結果、文書のファイルが入ったUSBメモリが発見された。山岡の証言通り、彼女は早朝に紗英のパソコンを操作して、ファイルを移動させていた。
さらに彼女のバッグからは、郵便局で切手百枚分を購入したレシートが発見された。
彼女は家のノートパソコンで作成した怪文書を、誰もいないときに会社のプリンターで出力し、それをわざわざ家に持ち帰って会社の封筒に入れ、土曜日に郵送していた。契約者の住所などの情報は社内で共有しているので、木村が利用するのは簡単だった。
郵便切手を購入したレシートが残されていたのは、経費として申請しようとして踏み留まったからだそうだ。
経理に提出したら、怪文書を郵送した証拠として残ってしまう。
かといって、会社を経由して郵送したらそれもまた証拠が残り、すぐに犯人が判明する。
文書を出力する紙代をケチるために会社のプリンターを使ったのはいいが、百枚もの郵便切手がなくなったら、誰かが木村が使用したと気づいてしまうだろう。
切手代を自費で出すしかないという事態が悔しかったと、木村は語った。
本部長は身勝手な木村を厳しく叱責した。
だが、なぜ社員の彼女が会社に損失を与えることをして、紗英に罪をなすりつけようとしたのかというと、木村は口を割らなかった。
木村美由紀は自己都合により退職した。
紗英の憶測だが、おそらく木村は紗英と悠司の関係に気づいていたのではないだろうか。悠司に想いを寄せていた彼女は、紗英が退職に追い込まれたら自分にチャンスがあると思ったのかもしれない。
そう思うと哀れみもあるが、彼女のしたことは許されることではない。
木村が怪文書を郵送した犯人だということは、社内のみの秘匿とされた。
木村は視線をうろうろとさまよわせている。
悠司は文書が入っていた封筒を掲げた。
「消印によると、この封筒が投函されたのは十月七日、つまりおとといの土曜日だ。おとといは、海東さんはずっと俺と一緒に過ごしている。彼女が約百通もの封書を投函するようなことをしていないのは、俺が証明する」
社員たちの間に、ざわめきが満ちる。
紗英は驚きに目を見開いた。
紗英の潔白を証明するためとはいえ、自分たちが特別な関係にあると、悠司が認めたからだ。男女が休みの日にずっと一緒に過ごしているということは、恋人であると表明したも同然である。
瞠目した木村は、なぜか紗英に向かってわめいた。
「そんなのアリバイにならないわ! 桐島課長が海東さんを庇おうとして、嘘をついてるかもしれないじゃないですか!」
ふと紗英は疑問に思った。
木村はどうあっても紗英を犯人にしたいようだが、なぜ彼女はそんなに必死になるのだろう。
そういえば、文書のファイルを発見したとき、まるで彼女はあらかじめそこにあるのを知っているかのように、スムーズに見つけていた。
そのとき、気まずそうな顔をした山岡が手を上げる。
「あのう……ぼくは今朝、仕事があって六時に出社したんですけど、すでに木村さんがいたんですよね。いつも遅刻ぎみなのに、どうしたのかなと思って、隠れて見ていたんですけど……」
そこに居合わせた全員が、ぼそぼそと話す山岡に注目した。
彼は夏頃に腰の手術を終えて無事に退院したが、体のことを考えて時短勤務にしている。そのため、早めに出勤して仕事をすることも度々あった。
木村は硬直して、山岡を見つめている。
「彼女、海東さんのデスクでパソコンをいじっていたんです。終わったらUSBメモリを抜いてたんですけど、あれって、この文書のファイルを移してたんじゃないですかね……」
つまり、文書を作成した犯人は木村であって、その罪を紗英に着せようとしていると、山岡は言っている。
木村の顔が真っ赤に染まった。
彼女は噛みつくように山岡に吠える。
「嘘よ! そんなこと知らないわ。妄想はやめてちょうだい!」
本部長は冷静な声で木村に訊ねた。
「木村さん。きみのUSBメモリを見せてくれ。バッグに入っている私物も含めて、すべて提出するんだ」
ごくりと唾を呑み込んだ木村は、うつむいた。先ほどまで紗英を糾弾していた勢いはすっかり失われ、彼女の顔は青ざめている。
「……できません」
「なぜだね? 山岡くんは、きみが海東さんに濡れ衣を着せていると証言している。そもそも海東さんは伊豆の担当者なので、このような怪文書をばらまくメリットがない」
「わたしにはあるっていうんですか⁉ わたしだって、そんなことするメリットありません!」
「では、それを証明してくれ。私物も含めて、USBメモリを見せてくれるね。それから土曜日にきみがなにをしていたのか、行動を証明できるものを提出してほしい。コンビニのレシートなどはあるかな?」
ぎりっと奥歯を噛みしめた木村は、怨念のように呟いた。
「私が悪いんじゃない……私じゃ……」
木村のバッグを確認した結果、文書のファイルが入ったUSBメモリが発見された。山岡の証言通り、彼女は早朝に紗英のパソコンを操作して、ファイルを移動させていた。
さらに彼女のバッグからは、郵便局で切手百枚分を購入したレシートが発見された。
彼女は家のノートパソコンで作成した怪文書を、誰もいないときに会社のプリンターで出力し、それをわざわざ家に持ち帰って会社の封筒に入れ、土曜日に郵送していた。契約者の住所などの情報は社内で共有しているので、木村が利用するのは簡単だった。
郵便切手を購入したレシートが残されていたのは、経費として申請しようとして踏み留まったからだそうだ。
経理に提出したら、怪文書を郵送した証拠として残ってしまう。
かといって、会社を経由して郵送したらそれもまた証拠が残り、すぐに犯人が判明する。
文書を出力する紙代をケチるために会社のプリンターを使ったのはいいが、百枚もの郵便切手がなくなったら、誰かが木村が使用したと気づいてしまうだろう。
切手代を自費で出すしかないという事態が悔しかったと、木村は語った。
本部長は身勝手な木村を厳しく叱責した。
だが、なぜ社員の彼女が会社に損失を与えることをして、紗英に罪をなすりつけようとしたのかというと、木村は口を割らなかった。
木村美由紀は自己都合により退職した。
紗英の憶測だが、おそらく木村は紗英と悠司の関係に気づいていたのではないだろうか。悠司に想いを寄せていた彼女は、紗英が退職に追い込まれたら自分にチャンスがあると思ったのかもしれない。
そう思うと哀れみもあるが、彼女のしたことは許されることではない。
木村が怪文書を郵送した犯人だということは、社内のみの秘匿とされた。