一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~
なぜ私まで名前で……と思うが、友人という設定なら、どちらかだけ名前で呼ぶのも不自然だろう。
「悠司さん。いつの間に、私とふたりきりで飲む約束になってるんですか?」
「ああ、あれね。その場で俺が決めたんだ」
「……その場で、ですか」
「そう。ふたりで飲もうと誘っても、紗英は断るだろう? だから約束していることにした」
紗英は呆れてしまい、言葉が出てこない。
確かに苦手な悠司に、いくら仕事の話だからと言われても、事前に誘われていたら、なんとか理由をつけて断っていたかもしれない。
悠司の強引さには呆れてしまうが、嫌ではなかった。
それに、仕事の話があるんだから、仕方ないよね……。
そう自分に言い聞かせていると、悠司は、すいと紗英の手を取る。
彼はそのまま、エレベーターホールへ導いた。
まるで淑女に対するようなエスコートをされて紗英は戸惑うが、この手を振り払うのは失礼なのではないかと思い、顔を熱くしながらも悠司に手を預ける。
「きみには、いろいろと聞きたいこともあるしね」
「仕事のことですか」
彼は誘いかける木村に、「仕事の話なので遠慮してくれ」と言っていた。
ところが悠司は、あっさりと言い放つ。
「いや? プライベートなことだ」
「え? だって木村さんには……」
フッと笑った悠司は、双眸を細める。まるで愛しいものを見るように紗英に視線を注ぐので、どきりと胸の鼓動が鳴る。
エレベーターに乗り込んだ悠司は、六階のボタンを押した。
片方の手に握りしめた紗英の手を、彼は離そうとしない。
「あれはね、嘘だよ。きみとふたりきりになりたかった」
ふたりきりの箱の中で、甘い声で囁かれる。
「えっ……なんで……?」
「なんでって、ふたりきりになりたかったからだよ」
思わず問い返してしまった紗英に、再び鼓膜を甘く震わせる声で、二度も言われた。
どきどきと早鐘のように鼓動が鳴り響いてしまう。
紗英はつないだ手から緊張が伝わってしまわないよう、息を詰めた。
悠司はどういうつもりなのだろう。
ふたりきりになりたい、なんて言われたら、勘違いしてしまいそうになるからやめてほしい。
私は彼のことが苦手なはずなのに、どうしてこんなにどきどきするの……?
紗英は戸惑いつつも、悠司に対して嫌悪はなかった。それどころか、甘いものが胸に染みていて、心地よくすらある。
ややあって六階に到着し、レストランに入店する。
そこは有名シェフが手がけるフレンチの名店だった。
一般的な会社員が食事するには、少々敷居が高い。
臆した紗英は、こっそりと悠司の耳元に囁く。
「あの、悠司さん。このお店、すごく高いんじゃないですか?」
ところが悠司は料金の心配などしていないのか、肩を震わせて笑いをこらえている。
「ちょっと、くすぐったい。嬉しいけど」
「だから、私、持ち合わせがあまりなくてですね……」
紗英はさらに悠司の耳元に近づく。入店してから支払いの相談をするなんて、ほかの誰にも聞かれるわけにはいかない。
「ちょっ、紗英、もう勘弁して。嬉しいけど」
彼の耳元に近づくほど、悠司は身を震わせて口元を緩ませた。
嫌なら体を離せばよいと思うのだが、直立した彼はぎゅっと紗英の手を握りしめている。
紗英が耳元から顔を離すと、一息ついた悠司は笑みを見せた。
「心配しなくていいよ。俺の奢りだから」
「え、でも……」
「俺が誘った女性に金を払わせるなんて無粋な真似をするわけないだろう。きみは景色と料理を楽しめばそれでいいから」
お仕着せをまとったスタッフがふたりを案内するために待っているので、ここで立ち止まるのもマナー違反だろう。
紗英は悠司にエスコートされ、窓際の席に案内された。
悠司に椅子を引かれて腰を下ろす。男性にエスコートしてもらうなんて初めてなので、緊張と高揚で、胸のどきどきはなかなか収まってくれない。
ふと窓の外に目をやると、そこには煌めく夜景が広がっていた。
「わあ……綺麗……」
「気に入ってくれた?」
向かいの席に腰かけた悠司は、優しい微笑みを見せる。
「はい、とっても。こんな素敵な夜景は初めて見ました」
店内の装飾は落ち着いた紫色でまとめられ、各テーブルにクリスタルライトが灯されていた。橙色の明かりが純白のテーブルクロスを浮かび上がらせている。気品に満ちた幻想的な雰囲気だ。
紗英の誕生日であろうとも、今までの彼氏はこのようなレストランに連れてきてはくれなかった。それどころかプレゼントさえくれなかった。
嫌なことを思い出しそうになり、紗英は慌てて脳内から追いやる。
「悠司さん。いつの間に、私とふたりきりで飲む約束になってるんですか?」
「ああ、あれね。その場で俺が決めたんだ」
「……その場で、ですか」
「そう。ふたりで飲もうと誘っても、紗英は断るだろう? だから約束していることにした」
紗英は呆れてしまい、言葉が出てこない。
確かに苦手な悠司に、いくら仕事の話だからと言われても、事前に誘われていたら、なんとか理由をつけて断っていたかもしれない。
悠司の強引さには呆れてしまうが、嫌ではなかった。
それに、仕事の話があるんだから、仕方ないよね……。
そう自分に言い聞かせていると、悠司は、すいと紗英の手を取る。
彼はそのまま、エレベーターホールへ導いた。
まるで淑女に対するようなエスコートをされて紗英は戸惑うが、この手を振り払うのは失礼なのではないかと思い、顔を熱くしながらも悠司に手を預ける。
「きみには、いろいろと聞きたいこともあるしね」
「仕事のことですか」
彼は誘いかける木村に、「仕事の話なので遠慮してくれ」と言っていた。
ところが悠司は、あっさりと言い放つ。
「いや? プライベートなことだ」
「え? だって木村さんには……」
フッと笑った悠司は、双眸を細める。まるで愛しいものを見るように紗英に視線を注ぐので、どきりと胸の鼓動が鳴る。
エレベーターに乗り込んだ悠司は、六階のボタンを押した。
片方の手に握りしめた紗英の手を、彼は離そうとしない。
「あれはね、嘘だよ。きみとふたりきりになりたかった」
ふたりきりの箱の中で、甘い声で囁かれる。
「えっ……なんで……?」
「なんでって、ふたりきりになりたかったからだよ」
思わず問い返してしまった紗英に、再び鼓膜を甘く震わせる声で、二度も言われた。
どきどきと早鐘のように鼓動が鳴り響いてしまう。
紗英はつないだ手から緊張が伝わってしまわないよう、息を詰めた。
悠司はどういうつもりなのだろう。
ふたりきりになりたい、なんて言われたら、勘違いしてしまいそうになるからやめてほしい。
私は彼のことが苦手なはずなのに、どうしてこんなにどきどきするの……?
紗英は戸惑いつつも、悠司に対して嫌悪はなかった。それどころか、甘いものが胸に染みていて、心地よくすらある。
ややあって六階に到着し、レストランに入店する。
そこは有名シェフが手がけるフレンチの名店だった。
一般的な会社員が食事するには、少々敷居が高い。
臆した紗英は、こっそりと悠司の耳元に囁く。
「あの、悠司さん。このお店、すごく高いんじゃないですか?」
ところが悠司は料金の心配などしていないのか、肩を震わせて笑いをこらえている。
「ちょっと、くすぐったい。嬉しいけど」
「だから、私、持ち合わせがあまりなくてですね……」
紗英はさらに悠司の耳元に近づく。入店してから支払いの相談をするなんて、ほかの誰にも聞かれるわけにはいかない。
「ちょっ、紗英、もう勘弁して。嬉しいけど」
彼の耳元に近づくほど、悠司は身を震わせて口元を緩ませた。
嫌なら体を離せばよいと思うのだが、直立した彼はぎゅっと紗英の手を握りしめている。
紗英が耳元から顔を離すと、一息ついた悠司は笑みを見せた。
「心配しなくていいよ。俺の奢りだから」
「え、でも……」
「俺が誘った女性に金を払わせるなんて無粋な真似をするわけないだろう。きみは景色と料理を楽しめばそれでいいから」
お仕着せをまとったスタッフがふたりを案内するために待っているので、ここで立ち止まるのもマナー違反だろう。
紗英は悠司にエスコートされ、窓際の席に案内された。
悠司に椅子を引かれて腰を下ろす。男性にエスコートしてもらうなんて初めてなので、緊張と高揚で、胸のどきどきはなかなか収まってくれない。
ふと窓の外に目をやると、そこには煌めく夜景が広がっていた。
「わあ……綺麗……」
「気に入ってくれた?」
向かいの席に腰かけた悠司は、優しい微笑みを見せる。
「はい、とっても。こんな素敵な夜景は初めて見ました」
店内の装飾は落ち着いた紫色でまとめられ、各テーブルにクリスタルライトが灯されていた。橙色の明かりが純白のテーブルクロスを浮かび上がらせている。気品に満ちた幻想的な雰囲気だ。
紗英の誕生日であろうとも、今までの彼氏はこのようなレストランに連れてきてはくれなかった。それどころかプレゼントさえくれなかった。
嫌なことを思い出しそうになり、紗英は慌てて脳内から追いやる。