一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~
紗英の家の扉前に、何者かが座り込んでいる。
一瞬、悠司かと思ったが、彼が共用廊下に座り込むような品のない仕草をするわけがない。
紗英に気づいた男は、だるそうに立ち上がった。
「よお、紗英。遅かったな」
「ま、雅憲⁉ ここでなにしてるのよ!」
なんと、二股をかけられて別れた元カレの大類雅憲だった。
わざわざ荷物を紗英に持ってこさせ、しかも浮気相手の車で取りに来たというセコい男だ。合い鍵を返してと言ったのに、音沙汰がないので、紗英は玄関のシリンダー自体を交換していた。部屋に入れないから、ドアの前に座り込んでいたのだろう。
雅憲は薄汚れたパーカーに破れたジーンズ姿で、髪はボサボサだった。仕事はアルバイトを転々としていたが、真面目に働いているのかと訝るような不潔さである。
「おまえさぁ、なんで鍵が変わってんの? オレ、何時間もここで待ってて、すごいしんどかったんだけど」
相変わらず自分のことばかり考えている男で、進歩がない。被害者面するのは雅憲の癖のようなものだった。
「それはシリンダーを交換したからよ。あなたが合い鍵を返さないからでしょ。今さら私になんの用なの?」
「なんでそんなことするんだよ。オレを外で待たせて寒い思いさせて、おまえはなんとも思わないのか?」
甘ったれた言い分に、呆れた紗英は深い溜息を漏らした。
こんな身勝手で幼稚な男に振り回されていた過去の自分が情けない。
「あなたにここで待っててくださいなんて誰も頼んでないでしょう。浮気相手の女の家で暖まったらいいんじゃないの?」
そう指摘すると、雅憲はきょとんとした顔をして、うろうろと視線をさまよわせた。
「オレ、浮気なんてしてない。なあ、紗英、寒いからさっさと部屋に入ろうぜ」
どうやら浮気相手の女とは破局したようだ。だから紗英のところに戻ってきたのだろう。
以前の紗英なら、情に絆されて雅憲を部屋に入れたかもしれない。
クズな人間を甘やかすことに慣れていた自分は、そうするものだと思い込んでいた。
でも、今は違う。
紗英は悠司とともに過ごして変われた。
毅然として、紗英に依存しようとする雅憲に言い放つ。
「あなたとはとっくに別れているし、よりを戻す気もないの。だから部屋には入れられない。合い鍵は返さなくていいから、もう帰ってちょうだい」
はっきり言うと、雅憲は唇を尖らせた。
彼は紗英より年齢が六歳上なのだが、そのわりには思考が幼稚で、それが顔に出やすい。
「なんだよ、なんでそんなこと言うんだよ! おまえはオレが可哀想だと思わないのか⁉」
突然怒り出した雅憲は、紗英が手にしていた紙袋を引ったくる。
取り返そうと手を伸ばしたが、紙袋はコンクリートの床に叩きつけられた。
ガチャン、と陶器が割れた鈍い音がする。
強かに打ちつけてしまったので、ティーポットやマグカップが割れてしまったのだ。
「なにするのよ!」
「おまえが悪い! 謝らないと許さないからな!」
どこまでも被害者ぶる雅憲は、紗英の腕を掴んで揺さぶった。
まるで子どもが駄々をこねるようなやり方だが、男の手で強く揺さぶられ、体勢を崩して転びそうになる。
「は、はなして……っ!」
紗英は必死に足で踏ん張った。雅憲はしつこくすれば紗英が諦めて部屋に入れてくれると思っているのか、腕にしがみついて離れない。
もみ合っているうちに、紗英の体が反り返る。
いつの間にか、階段まで来ていた。ヒールを踏み外したら、真っ逆さまに落ちてしまう。
そのとき、雅憲がパッと手を離した。
「きゃ……」
突然、引っ張られていた力がなくなり、後ろに重心をかけていた紗英の体は傾いてしまう。階段から、がくりと足を踏み外した。
――落ちる……!
階段を転げ落ち、頭を打ちつけるイメージが浮かんだ。
だが予想した衝撃は訪れず、がしりと体は力強い腕に受け止められる。
「……えっ?」
紗英がおそるおそる振り向くと、悠司が彼女の体を支えていた。
悠司は紗英を守るように、しっかりと支えた体を階段上にのせる。
「悠司さん……どうしてここに?」
「紗英を追ってきたんだ。どうしても話をしなければと思ってね。だが、危ないところだったようだな」
助けてくれた。
紗英の胸に安堵が広がる。
思い通りにいかなかったばかりか、悠司が助けに現れたので、雅憲は呆然としていた。
「な、なんだよ、おまえは……」
紗英の肩を抱いた悠司は、雅憲に毅然と向き合う。
「俺は紗英の恋人だ」
「えっ、ゆ、悠司さん……」
はっきり恋人と言ってしまうなんて、悠司はどういうつもりなのだろう。
それとも、この場を収めるためにとりあえずということなのだろうか。
一瞬、悠司かと思ったが、彼が共用廊下に座り込むような品のない仕草をするわけがない。
紗英に気づいた男は、だるそうに立ち上がった。
「よお、紗英。遅かったな」
「ま、雅憲⁉ ここでなにしてるのよ!」
なんと、二股をかけられて別れた元カレの大類雅憲だった。
わざわざ荷物を紗英に持ってこさせ、しかも浮気相手の車で取りに来たというセコい男だ。合い鍵を返してと言ったのに、音沙汰がないので、紗英は玄関のシリンダー自体を交換していた。部屋に入れないから、ドアの前に座り込んでいたのだろう。
雅憲は薄汚れたパーカーに破れたジーンズ姿で、髪はボサボサだった。仕事はアルバイトを転々としていたが、真面目に働いているのかと訝るような不潔さである。
「おまえさぁ、なんで鍵が変わってんの? オレ、何時間もここで待ってて、すごいしんどかったんだけど」
相変わらず自分のことばかり考えている男で、進歩がない。被害者面するのは雅憲の癖のようなものだった。
「それはシリンダーを交換したからよ。あなたが合い鍵を返さないからでしょ。今さら私になんの用なの?」
「なんでそんなことするんだよ。オレを外で待たせて寒い思いさせて、おまえはなんとも思わないのか?」
甘ったれた言い分に、呆れた紗英は深い溜息を漏らした。
こんな身勝手で幼稚な男に振り回されていた過去の自分が情けない。
「あなたにここで待っててくださいなんて誰も頼んでないでしょう。浮気相手の女の家で暖まったらいいんじゃないの?」
そう指摘すると、雅憲はきょとんとした顔をして、うろうろと視線をさまよわせた。
「オレ、浮気なんてしてない。なあ、紗英、寒いからさっさと部屋に入ろうぜ」
どうやら浮気相手の女とは破局したようだ。だから紗英のところに戻ってきたのだろう。
以前の紗英なら、情に絆されて雅憲を部屋に入れたかもしれない。
クズな人間を甘やかすことに慣れていた自分は、そうするものだと思い込んでいた。
でも、今は違う。
紗英は悠司とともに過ごして変われた。
毅然として、紗英に依存しようとする雅憲に言い放つ。
「あなたとはとっくに別れているし、よりを戻す気もないの。だから部屋には入れられない。合い鍵は返さなくていいから、もう帰ってちょうだい」
はっきり言うと、雅憲は唇を尖らせた。
彼は紗英より年齢が六歳上なのだが、そのわりには思考が幼稚で、それが顔に出やすい。
「なんだよ、なんでそんなこと言うんだよ! おまえはオレが可哀想だと思わないのか⁉」
突然怒り出した雅憲は、紗英が手にしていた紙袋を引ったくる。
取り返そうと手を伸ばしたが、紙袋はコンクリートの床に叩きつけられた。
ガチャン、と陶器が割れた鈍い音がする。
強かに打ちつけてしまったので、ティーポットやマグカップが割れてしまったのだ。
「なにするのよ!」
「おまえが悪い! 謝らないと許さないからな!」
どこまでも被害者ぶる雅憲は、紗英の腕を掴んで揺さぶった。
まるで子どもが駄々をこねるようなやり方だが、男の手で強く揺さぶられ、体勢を崩して転びそうになる。
「は、はなして……っ!」
紗英は必死に足で踏ん張った。雅憲はしつこくすれば紗英が諦めて部屋に入れてくれると思っているのか、腕にしがみついて離れない。
もみ合っているうちに、紗英の体が反り返る。
いつの間にか、階段まで来ていた。ヒールを踏み外したら、真っ逆さまに落ちてしまう。
そのとき、雅憲がパッと手を離した。
「きゃ……」
突然、引っ張られていた力がなくなり、後ろに重心をかけていた紗英の体は傾いてしまう。階段から、がくりと足を踏み外した。
――落ちる……!
階段を転げ落ち、頭を打ちつけるイメージが浮かんだ。
だが予想した衝撃は訪れず、がしりと体は力強い腕に受け止められる。
「……えっ?」
紗英がおそるおそる振り向くと、悠司が彼女の体を支えていた。
悠司は紗英を守るように、しっかりと支えた体を階段上にのせる。
「悠司さん……どうしてここに?」
「紗英を追ってきたんだ。どうしても話をしなければと思ってね。だが、危ないところだったようだな」
助けてくれた。
紗英の胸に安堵が広がる。
思い通りにいかなかったばかりか、悠司が助けに現れたので、雅憲は呆然としていた。
「な、なんだよ、おまえは……」
紗英の肩を抱いた悠司は、雅憲に毅然と向き合う。
「俺は紗英の恋人だ」
「えっ、ゆ、悠司さん……」
はっきり恋人と言ってしまうなんて、悠司はどういうつもりなのだろう。
それとも、この場を収めるためにとりあえずということなのだろうか。