一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~
「……私も。好きです」
 愛を確かめ合ったふたりは、情熱的なくちづけを交わした。
 星の煌めきが朝陽に消えるまで、ふたりは何度もつながり、睦言を囁き合っていた。

 荘厳なチャペルは神聖な空気が漂っている。
 結納を済ませた紗英と悠司は、本日この教会で結婚式を挙げる。
 結婚を約束してから、三か月という短い期間だったが、双方の両親のもとに挨拶に行き、結婚を認めてもらった。
 悠司と結婚したら御曹司の夫人になるので、もしかしたら彼の両親に認めてもらえないのでは……という懸念があったが、悠司は紗英のよいところを懇切丁寧に両親に説明して、「俺の妻になるのは彼女しかいない」と言ってくれた。
 感激した紗英は、胸を熱くして彼の両親に頭を下げた。「一生を悠司さんと添い遂げさせてください」と、両親にお願いした。
 その熱意が通じて、彼の両親に結婚を認めてもらえたのだ。
 さらに紗英の実家に行ったときも、悠司は折り目正しく挨拶して、「紗英さんとの結婚を認めていただきたい」と申し出た。
 久しぶりに会った両親は急すぎたので驚いたのか、半ば呆然として頷いていた。
 クズ男とばかり交際してうまくいっていない紗英が、突然イケメン御曹司の悠司と結婚すると言ってきたので、意外に思ったのかもしれない。
 紗英の母親も反対することはなく、「娘をお願いします」と悠司に挨拶していた。母とは幼い頃から確執があったものの、紗英の幸せを望んでくれる母親だったのだとわかった。紗英はもう、母を許してあげようと思った。
 それから、過去のしがらみに囚われていた自分も許そう。
 紗英はついに過去から逃れることができた。
 もうクズ男を製造する女なんかではなかった。
 紗英は好きな人と結婚して、幸せになる女性なのだ。
 そして今日、晴れの日を迎える。
 家族や親戚、会社の人が祝福する中で、純白のウェディングドレスをまとった紗英はバージンロードを歩む。
 祭壇前では、グレーのタキシードを着た悠司が微笑を浮かべて待っていた。
「素敵だよ。俺の奥さん」
「悠司さんも、とても格好いいです……」
 優しい笑みで紗英の手を取った彼は、王子様のように輝いていた。
 一介の社員に過ぎなかった紗英が、御曹司の悠司に見出され、幾多の困難を越えてこの日を迎えられた。
 私は、大好きな人と、結ばれる……。
 紗英の胸は感激に溢れていた。
 牧師の前で、誓いの言葉をふたりで述べる。
「病めるときも、健やかなるときも、ふたりで力を合わせて苦難を乗り越え、喜びを分かち合い、笑顔が溢れる家庭を築いていくことを誓います」
 これは式の前にふたりで練習した誓詞だ。改めて、紗英は悠司と家庭を築き、ともに人生を歩んでいくという誓いを胸に刻んだ。
 式は進行し、指輪の交換となる。
 台座に置かれた白銀の結婚指輪の、小さなほうを、悠司は指先で摘んだ。
 ふたりは向き合い、紗英は左手を差し出す。
 彼女の左手を取った悠司は、すっと薬指に指輪をはめた。
 紗英の薬指には、プラチナの結婚指輪が光り輝く。
 そして今度は、紗英が悠司に指輪をつけてあげる番だ。
 大きいほうのリングを指先で摘んだ紗英は、左手を差し出している悠司の薬指に、結婚指輪をはめた。
 これで互いの指に、誓いのしるしが輝く。
 白銀のマリッジリングは祝福に光り輝いていた。
 続いて、誓いのキスが交わされる。
 紗英の顔にかけられている薄いベールを、悠司はそっと捲った。
 彼は甘い声で囁く。
「愛してるよ」
「私も……愛してます」
 そっと神聖なくちづけが交わされた。
 柔らかなキスを祝福するように、チャペルの窓からは明るい陽射しが差し込む。
 幸せなふたりを、拍手が包み込んでいた。

 結婚式を挙げたふたりは、悠司のマンションでともに暮らし始めた。
 引っ越しやお祝いのお返しなどで忙しい日々が続いたが、悠司が積極的に手伝ってくれたので、紗英はとても助かった。
 一か月ほどが経って、ようやく落ち着いてきた。
 ふう、と息をついた紗英は、休日の空をマンションの窓から見上げる。
 悠司のマンションを訪れたときは、まさか彼と結婚して同居することになるなんて、夢にも思わなかった。
 けれど悠司の優しさが、紗英の頑なな心を溶かしてくれたのだと思う。
 そうでなければ、結婚という幸せまで辿り着けなかっただろう。
 キッチンから、カチャカチャとカップを取り出す音が聞こえてきた。悠司が紅茶を淹れるようだ。
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