千秋先生は極甘彼氏。
「本当は誕生日にプロポーズするつもりだったんだ」
柾哉さん曰く、実家のことがあった時に、たとえご両親に何を言われても柾哉さんは私と別れるつもりはないし、結婚を考えていることをちゃんと伝えておきたかったらしく、先にホテルでプロポーズしてくれたらしい。
「丸く収まってよかったけど何言われるかわからなかったから」
柾哉さんがどれだけ私を大切にしてくれているか知りじわりと涙が浮かぶ。
柾哉さんのご実家に行くことは急遽決まったことだった。昨日の今日で108本も薔薇の花が集まるのだろうか。きっと横浜の花屋から紅いバラが忽然と姿を消したに違いない。
柾哉さんも「どれだけ花が集まるかわからなくて、その日は違う意味でも落ち着かなかった」と苦笑した。
「でも108本ちゃんとあったよ」
「果穂がよく寝てくれたからぎりぎり間に合った」
「じゃああの時フロントに取りに行ってくれてたの?」
「そう。本当は起きた時にテーブルに置いておくつもりだったんだけど」
柾哉さんは指輪の嵌った左手に指を絡ませると、その手を引き寄せて手の甲にキスをする。
「指輪は誕生日に合わせて作ってもらってたからあの日に間に合わなくて。果穂から“指輪はないの?”っていつ聞かれるかヒヤヒヤしてた」
「そ、そんなこと言わないよ?」
「わかってても、やっぱりプロポーズするなら指輪は一緒に渡したかったから」
それでも私は柾哉さんが私のことを考えて準備してくれたことの方が嬉しい。あの日は本当にどうなるかと思っていたから。
「ねえ、柾哉さん。もう一回言ってくれる?」
寝起きで寝癖もついたすっぴんで。きっと顔の脂もひどいし、パジャマは買ったばかりの可愛いやつじゃなくて柾哉さんのTシャツで。特別なものは何もないけれど。
「もう一回プロポーズしてほしいな」
せっかく指輪をもらったのだからもう一度、あの日の言葉が聞きたくて。
おねがい、と柾哉さんにせがんだ。
柾哉さんは小さく笑うと私をぎゅうと抱きしめる。
「好きだよ、果穂。俺のかわいい果穂。一生俺のかわいい果穂でいて」
「柾哉さん、顔、みたい」
「だめ」
チュッとわざとらしいリップ音が耳元で跳ねる。くすくすと楽しげな声も聞こえてきた。肩が揺れてチラッと見えた横顔がひどく楽しげだ。
「もう、まさ…」
優しい唇がその先に言葉を閉じ込める。キャラメルよりも甘い視線が愛を紡いだ。
「あいしてるよ、果穂。俺と結婚してください」
一年前の私にはきっと想像もつかなかった。
柾哉さんに出逢って恋をして。こんなにも人は誰かを愛することができるのだと。穏やかで豊かな気持ちになれるのだと。それを教えてくれた彼は今日も私を甘やかしてくれる。大切にしてたくさんの愛を注いでくれる。
「…はい!不束者ですがよろしくお願いします!」
どうかこれからもあなたと歩む道の先に笑顔がたくさんありますように。
私は未来の旦那様を抱きしめて元気よく彼との未来の約束を取り交わした。
end.