千秋先生は極甘彼氏。
初めて自覚したあの日から日に日に想いは募っていた。
でも気持ちを打ち明ける勇気はなくてたった数分のこの時間が楽しみで何よりも優先したい。こんなこと仕事中にすることじゃないと分かっている。
だからこそ話す内容は業務的になる。露骨なアピールなんてできないもの。迷惑に思われるのも怖い。それでもできる限りのことはしたくていつも私は気づいてもらえるよう最大限に小さなサインを送っていた。
「先日発売された雑誌のインタビュー記事拝見しました」
「え?もう読んだの?」
「はい!」
「発売されたのって三日ほど前じゃなかった?」
「三日あれば十分ですよ」
千秋先生の情報は隈なくチェック。もうマニアと言っても過言ではない。
そんな私に千秋先生が徐々に砕けてくれている気がするのも嬉しい。もちろん、業務が終わりエレベーターを待つ間だけの数分間だから、だけど。
「いつも非常にわかりやすい言葉を選んでくださるのでそれほど知見のない私でもスラスラ読めて頭に入りやすいです」
「感想をありがとう。でも福原さんは随分成長されていると思いますよ」
「それは千秋先生のおかげですね。ありがとうございます」
眉を下げて苦笑している顔がとても可愛い。ちょっと困っている顔が個人的にはツボだ。眼鏡の奥の目元が垂れる瞬間いつも頭の中でベルが鳴る。
今週もいただきました、ハニカミ笑顔!
胸はキュンキュンしっぱなしだ。
7歳も年上の男性に可愛いは失礼だけど、やっぱり千秋先生は可愛い。
そんな内心を諌めるようにエレベーターの到着ベルが鳴る。扉が開き、エレベーターのボタンを押しながら千秋先生に次回の予定について確認をとった。
「次は再来週の木曜ですよね。今日と同じ時間でよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。ではここで」
「はい、ありがとうございました。失礼します」
閉まりゆくエレベーターの扉を眺めながら頭を下げる。完全に扉が閉じ切ってエレベーターが動く音がしてようやく頭を上げた。詰めていた息をふぅと吐き出して伸びをする。