千秋先生は極甘彼氏。
今日も千秋先生の安定のかっこよさに惚れ惚れした。
ただのニットとスラックスなのに長身のせいかとても似合う。エフェクトが増し増しだった。
(イケメンは何を着ても似合うんだよね)
私は千秋先生のことを考えながらその足でトイレに向かう。
個室に入る手前にある化粧室には全身鏡があり、誰もいないことを確認してその前に立った。
ちんまりとした自分が映し出されて、ズンと落ち込む。
(いやいや、大丈夫だよ、果穂。そこまで悪くないよ)
身長158センチ。日本人女性のザ平均身長。
童顔なうえ、額が狭いため前髪を分けることが難しい。伸ばしてアイロンをすればなんとか流せるけど、髪質が髪質なのでアイロンをしても解けやすいことが悩み。
大人っぽくなりたくて髪を伸ばしてみたり、洋服のブランドを変えてみたりと試行錯誤中。
面倒くさがりの私だけど最近はネイルを始めたら好評だった。おまけにやる気もあがるし一石二鳥。しかしどう頑張っても矯正できないものはある。
例えば、顔の作りとか身長とか。
今まで特に何も思わなかったのに千秋先生に恋をしてとても気になり始めた。もっと色気のある大人の女性が千秋先生には似合っていると思う。だけどどう頑張ってもそんな女性にはなれない。
「あ、果穂。お疲れ」
「美雨ちゃん」
用を済ませ手を洗っていると同期の岩下美雨とトイレでバッタリ出くわした。彼女も同じ人事部労務課だけど新卒採用担当なので業務上の関わりはない。
今は来月から入ってくる新入生の研修プログラムを作成したり、来年度の新卒採用が始まっていることもあり彼女もまた忙しいひとりだ。
「もう帰っちゃったの?」
「うん」
誰がとは言わないが誰のことを指しているのかすぐにわかった。
「ふふふ。早くしないと取られちゃうわよ」
「う、わかってるけど、でも」
美雨ちゃんは私の気持ちを唯一知っている。同期であり色々と頼りになる友人の一人だから。
「(狙ってる人は多いんだから。中も外も敵が多いわよー)」
美雨ちゃんは早く千秋先生にアクションを取れと言っている。
でも私にそんな勇気はない。だって振られたらきっと仕事で会うのが気まずくなる。それでも恋愛なんて弱肉強食の世界でありエコ贔屓の世界だ。手をあげないと始まらないし舞台にも立てない。
「(でも、恋人がいるかもしれないし)」
「(そんなの聞いてみないとわからないじゃない)」
トイレは誰が聞いているかわからないのでついコソコソ話になる。それもあり主語は出さないようにしていた。美雨ちゃんの配慮でもある。
「(聞いたところで答えてくれるかわからないし。それに業務以外のこと話すのはちょっと)」
実際に社内の何人か(広報や総務の子)が果敢に千秋先生にアプローチしたようだ。とは言っても食事に誘ったり連絡先を渡しただけとの美雨ちゃん情報。結果はもちろん言うまでもない。
「(改めて考えると果穂の立場だと難しいよね。まあ落ち着いたら飲みに行こ!私もゆっくり話したいし)」
美雨ちゃんは「じゃあね」とトイレの奥に行ってしまった。その後ろ姿を見送って「いいな」と呟く。
(美雨ちゃんみたいに背が高くて美人だったら隣に立っても恥ずかしくないのになぁ)
ないものねだりはダメだと思いながらも彼女のような長身と目鼻立ちのはっきりした顔立ちはとても憧れる。
その上性格もさっぱりして付き合いやすくて、バリバリ仕事ができてとても素敵な女性だ。
でも私にもいいところはある。うん、大丈夫。
私はオフィスに戻り、獅々原さんから受けた指示を遂行しようと気合いを入れた。