千秋先生は極甘彼氏。
「あの、先ほどの女性を送っていかなくてよかったんですか?」
生ビールで乾杯後次から次にテーブルの上に並べられた料理を食べながら「今日何してたの?」から始まった会話。
そのままの流れでアルコールの勢いに任せて「えいや!」と質問してみた。
さすがに「どんな関係ですか?」とは聞けない。彼女じゃなくとも太刀打ちできそうにない相手がいるのなら私は今まで通り業務に支障がないように影から千秋先生をこっそりと想っているだけで十分だった。
「うん。タクシーが運んでくれるから」
「えーっと?その」
「どんな関係か気になる?」
千秋先生に訊ねられて素直に頷いた。嘘は吐きたくなかったし誤魔化してもバレそうな気がした。
「き、綺麗な人だったのでてっきり」
「うーん。見合い相手で元職場の同期。彼女の実家も総合病院を経営されているけど今はどこも病院の経営は苦しい。それで今度うちと合併するだのしないだの話をしていて」
み、見合い相手?しかも病院を合併?!?!
「え、い、今のお仕事はどうするんですか?」
「もちろん続けるよ。あと何か誤解しているかもしれないけど、俺は病院を継ぐ気はないし彼女と結婚するつもりもない。ただ、元同期だから無碍にできなくてね」
「あ、なるほど」
「安心した?」
「は、はい。…っ、そ、その!千秋先生に辞められると困るので…っ」
俯いてスカートの裾をキュッと握りしめる。
よかった、という想いと同時についこぼれてしまった本音を慌てて誤魔化した。
「…それは……まあいいや。グラス中身ないけど何か飲む?」
「あ、はい!いただきます。同じビールで」
「カクテルとか飲まないの?」
「飲みますよ。でもビールも好きです。あ。やっぱり梅酒にします。南高梅本格梅酒果実入りってなかなか美味しそうですね。千秋先生は何飲みます?」
あまりの勢いのせいか千秋先生が呆気に取られていた気がしたけど、私はその場をうまくやり過ごせたせいかそのことに突っ込まなかった。これ以上言い訳をすると色々と墓穴を掘りそうだ。余計なことは言わない。これに限る。