千秋先生は極甘彼氏。
「じゃあ連絡先聞いてもいいかな?」
千秋先生がスマホを差し出した。スライドにはQRコードが表示されている。慌ててスマホをカバンから出してメッセージアプリを開く。表示されたQRコードを読み取れば『Masaya Chiaki』が入ってきた。
…っ、入ってきた!入ってきた!!
わぁーーーーーー!!
私の携帯に千秋先生がいる。しかもプライベートの連絡先に。
う、嬉しい!嬉しい!!どうしよう!!
スマホをもつ手が震える。千秋先生のアイコンを拡大しそうになって慌てて好奇心を抑え込んだ。
「何かスタンプでいいから送ってくれる?」
「は、はい!…ぁあっ」
何かスタンプ、と言われていつもの癖で女装したおじさんのスタンプを送ってしまった。これはただウケ狙いで友人のみで使うスタンプなのに!
もっと可愛い女の子らしいスタンプを送りたかった…。
呆然としていると千秋先生がその理由に気がついたようだ。
「どうしたの?あ、…っフ」
顔を背けてクツクツと笑っている。私はいたたまれなくなって小さくなった。せめて動物とかだったらよかったのに。泣きたい。女装したおじさんとか。笑ってくれてるしいいんだけど。
「福原さんのイメージが今日で色々と崩れたよ」
「えぇ?それは悪い方ですか?」
「いやいや。いい方向に。見ていて飽きないし」
「それは…珍獣枠かなんかでしょうか?一応人間やってますけど」
思わず眉根を寄せた私に千秋先生がまた笑う。
口元に拳をあてて肩を振わせる彼を今日何度見たか分からないぐらい見た気がする。
「一応ってなに、一応って。ちゃんとひとりの人間で女性として見てますけど?」
ふぁ?
千秋先生の手が伸びてきて顎の下、左の首に添えられた。手のぬくもりがじんわりと伝わってくる。ジィっと見つめられて目が逸らせない。
し、しぬ!しんじゃう〜〜〜っ
「あ、あの」
ひぇ〜〜〜
「勘違いじゃなかったらいいな、と思って誘ってみたんだけど。…俺のこと好き?」
「ほぉ」
「っ」
ば、バレてる?!バレてた?!
え。どうしようどうしようどうしよう。
汗がダラダラと落ちてくる。さっきまで楽しかった空気が急に怖い。
触られるのは嫌じゃ無いけど恥ずかしすぎて無理だぁ!
その手から逃げるように亀みたく首を引っ込めてみたけど千秋先生の手も巻き込んでしまった。
巻き込み事故!
「っ、なに。その“ほぉ”って」
「え、いや、そのっ」
「福原さんが答えなくても脈は正直だからごめんね?」
脈〜〜〜〜〜!!
おろおろと目を彷徨わせているとやっと手が引き抜かれた。
ホッとしていると正面から楽しそうな笑みとぶつかる。
「少なくとも俺は福原さんのこと可愛いと思ってるけど」
「ふぁ?」
「できれば付き合いたい。彼女になってほしい。それで悪いと思いつつ福原さんのこと試した」
「…ためした?」
「うん。結果、脈はありそうだな、と」
思わず両手で自分の首を包んだ私は悪くないと思う。千秋先生はまたケラケラと笑う。
「結構はじめの方からいいなと思ってたんだ。自惚れかもしれないけどなんとなく福原さんからの好意も感じる。ただ、それは仕事だからなのかもしれない。だからまあ様子見てたというか」
千秋先生が恥ずかしそうに首に手をやって顔を逸らした。
な、なにその顔!あなたの方が可愛すぎるんですけど!!(鼻血)