千秋先生は極甘彼氏。
「俺と付き合ってくれませんか」
言葉にならない喜びを噛み締めながら夢じゃないかと何度も瞬きした。それでも目の前から千秋先生の顔は消えないし気配もあるままだ。
どうしよう。うそ。え?本当?
「だめ?」
「だ、だめじゃないですっ!全力ではなまるです!!」
「全力ではなまるってなにそれ」
_____すごいですね、おめでとうございます。
無垢な少年のように笑顔と心からのお祝いの言葉。きっかけは些細なことだった。見返したくて必死になって作った資料。衛生管理者もいずれ取らないといけないなら一緒に取ってやる、と無謀にも挑戦した。
その結果ギリギリだけど合格したし、千秋先生に認められて。
そう。認められて嬉しくて。心からそう思ってくれていると伝わったから余計に心に刺さった。
「だって…。ずっと、好きでしたから」
閉じ込めていた想いをほろりと吐き出した。
この半年ずっと閉じ込めていた。言ってはいけないと思って。
仕事の邪魔になるし、叶わない場合非常にやりづらくなる。
だからこの気持ちを打ち明ける時は、私がフィックスを退職するときか、はたまた先生がうちの選任から外れるときだ。だからもっと先のことだと思っていたのに。
「…そうだったんだ」
「……はい」
「うれしい」
俯いていた顔をそっとあげる。
千秋先生が本当に嬉しそうに蕩けそうなほど柔らかく笑ってくれて胸がキュウと締め付けられた。
「本当は今夜告うつもりじゃなかったんだ」
帰りはタクシーで千秋先生が家まで送ってくれた。タクシーの中では終始無言。それでも千秋先生の手が優しく包んでくれたから心臓がひっくりかえりそうになるほど緊張しっぱなしだった。そして今アパートの前だ。千秋先生はわざわざタクシーを降りて家の前までついてきてくれる。
「でも意外と、茅野、あ、同期のことだけど、関係性を気にしてくれてたし、福原さんだけには茅野とのことを誤解されたくなかった。その時のホッとした顔とかどっちの意味かわからなくて試してしまったけど、リアクションとかいちいち可愛くて無理だった」
千秋先生は苦笑して突っ立ったままの私をそろりと腕の中に閉じ込めた。私は直立不動のまま背の高い彼を見上げる。脳がうまく処理仕切れてなくてちょっともうキャパオーバーだ。それなのにもっと大変なことが起きた。
「果穂」
自分の名前が熟れた果実のように甘みを帯びた。ただ名前を呼ばれただけなのに世界で一番幸せな響きに聞こえる。閉じ込められた距離がゼロになる。密着した服越しから伝わる心音に千秋先生も緊張してくれているんだと感じて嬉しくなった。
「好きって言ってくれて嬉しかった。俺も好きだよ。伝えるの遅くなってごめん」