千秋先生は極甘彼氏。
声にならない叫びを飲み込みながら必死で首を横に振った。何か伝えたいのに適切な言葉が出てこない。胸がいっぱいいっぱいで喉の奥が熱い。迫り上がってくるものを飲み込んで鼻を啜った。
「…好きです」
「うん」
「本当はずっと言いたかったんです」
あなたの隣に立ちたくて、ファッションを変えました。メイクも研究したし美容院も変えて、仕事も一生懸命打ち込んだ。幻滅されたくなくて、ずっと認められる人でいたかったから。
すごいね、とあの日笑ってくれたようにもう一度笑って欲しかった。
私だけを見て欲しくて気づかれないほどさりげなくずっとアピールしていたつもりだった。
「言って欲しかったな」
「う…でも」
「わかってる。果穂の業務のことを考えると難しいことぐらい。でもいつの間にか俺は果穂に会うのが楽しみで訪問日が待ち遠しかったよ」
「そ、そうなんですか?」
「うん。いつも入り口まで慌てて来てくれるでしょう?その様子がいつも可愛いなぁってなんとか自分のものにできないかなっていつも煩悩と戦ってた」
ぎゅうと抱きしめられた腕に力が篭る。
「でも…今日から俺のもの、ね?」
「…はい、千秋先生のものです」
「果穂」
耳元で甘く囁かれておずおずと顔を上げる。甘くとろけた視線に見つめられて逃げる場所を失った。
「仕事の時は“千秋先生”でいいけど、二人の時はちゃんと名前で呼んで」
「…名前」
「そう。“柾哉”って」
期待の篭った眼差しを向けられて恐る恐る口を開いた。本当はずっと夢見ていた。そう呼びたくて何度も何度もこっそりと心の中で呼んだ名前を。
「…柾哉さん」
「もういっかい」
「柾哉さん」
「嬉しい」
あの時より一層大きな花が咲き綻んだ。とろみを帯びた声に籠る心からの歓喜。両頬を包まれて僅かに顎が上がる。鼻先が触れる。息を止めて目を閉じた。
淡い吐息が唇にかかり後から落ちてきた熱く弾力のある感触に息を飲んだ。触れるだけの優しくて甘いキス。波のように引いては寄せて、寄せては引いてを繰り返した。嬉しくて恥ずかしくてそれでもしあわせで。胸がいっぱいいっぱいの私はようやくホゥと唇が離れた途端逃げるように彼の胸に顔を埋めて控えめな声に笑われたのだった。