千秋先生は極甘彼氏。
それからの一週間は怒涛だった。
なぜなら、先日行くはずだった部屋着や下着を揃える計画が頓挫していた。
その日にどうにかなるとは思わないけど、いつでも準備はできていた方がいい。千秋先生は優しいしきっと無理強いはしないけど、それでも事前準備は必要だ。
(何事も準備八割)
私は仕事終わりや休みの日を利用していつでも何か合ってもいいように色々と準備を進めた。
そしてあっという間に迎えた当日。
朝は5時に起きた。6時半に駅で待ち合わせだけど余裕を持って準備をしたい。昨日一日中悩んで選んだ洋服に袖を通しながら千秋先生のことを考えていた。
学会で忙しかった彼とはここ数日電話で話せていない。メッセージは何通か送ったけどあまり続かなかった。
事前に返事が遅くなることは聞いていたけど、付き合ってからほとんど毎日といってもいいほど電話をくれたからか連絡がないととても寂しい。
送信したメッセージばかり見て「既読」の文字を見て溜息を吐いての繰り返しだった。
だから今日、すごく楽しみにしていた。
楽しみすぎて5時より早く目が覚めたぐらい。
「大丈夫だよね」
色々迷ってアイボリーのワンピースにデニムジャケットを羽織る。鞄も小ぶりのショルダーバック。足元はスニーカーで歩きやすさを重視だ。写真で見る限り土や小石のある道らしいので高さのある靴やサンダルは履かない方がいいと思った。
「まだちょっと早いけど行こう」
時刻は六時十分。今から行っても十五分ぐらい待つかもしれない。
それでも気持ちが落ち着かなくて忘れ物がないか最終確認をして着替えたくならないうちにいそいそと家を出た。
(お天気良さそうでよかった)
四月も半ば。日中は暖かくなってきたけどそれでも朝晩はまだ涼しい。ジャケットの前を合わせながら少し背中を丸めて駅まで歩いていると一台の車が視界に飛び込んできた。
「あ」
誰の、なんて言われなくてもわかった。
車の後ろ姿で運転席が見えた訳じゃない。それでも彼だと思って駆け足になる。
すると車のハザードランプが消えて発進し始める。「あれ?」と思っているとロータリーを一周回ってきて目の前に止まった。
「おはよう」
千秋先生がわざわざ運転席から出てきてくれた。おまけに助手席のドアまで開けてくれる。紳士!!
「おはようございます。お邪魔します」
「うん。背もたれ適当にして」
「あ、はい」
千秋先生は私が車に乗ったのを確認すると静かにドアを閉めて運転席へと回った。