千秋先生は極甘彼氏。
首都高速から常磐自動車道に向かう車は休日の朝の早い時間もありスムーズに進んだ。途中サービスエリアで休憩し、お腹が空いたので名物だというクリームパンを食べる。千秋先生は朝からガッツリ丼を食べていた。名物らしくて少しだけ分けてもらった。
「着いたね」
「意外と早かったです」
結局車の中でずっと喋りっぱなしで気づけば目的地に到着した。途中サービスエリアにも立ち寄ったけど、八時半過ぎには到着して駐車場も確保できた。
「天気も良さそう」
「そうですね」
「ねえ、果穂。今日はというか、二人の時は敬語無しにしない?」
「え、…う、は、うん?」
「うん。やっぱり敬語だと距離感を感じるしもっと果穂と仲良くなりたい」
まだ付き合って二週間。すぐすぐ仲を深めることは難しい。こういうのはやっぱりある程度同じ時間を過ごさないと、というのも分かってる。
「が、がんばる」
「一回敬語使うにつき一回俺にキスするってどう?」
「っええ」
それはとても難しくないでしょうか。
だって普通にキスはしたいけど、そしたらなかなか敬語から抜け出せない。
でも自分からするのは…!
どう伝えようか迷いながら千秋先生を見上げるとハンドルに顔を伏せて肩を揺らしていた。
「ひどい」
「ふはっ。ごめんごめん」
「思ってないですよね?!あ!」
はい言ったー、と千秋先生がこちらを向く。
「はい、じゃあキスして」
「…ぅ」
「いや?」
嫌じゃない。嫌じゃないの。
でも自分からするの、恥ずかしいじゃない。
「ほっぺ、で、いい?」
(唇とか無理!)
「仕方ないなあ」
いいよ、と千秋先生は助手席の方に頬を寄せた。
「……目、閉じて」
「頬なのに?」
「頬でも!」
はいはいと楽しげに笑う千秋先生を見ているとなんだかとても遊ばれている気がする。
「いつでもどうぞ」
それでも彼はちゃんと目を閉じて待っていてくれた。目を開ける気配がなさそうなことを感じながらシートベルトを外して運転席へ身を乗り出す。横顔をじっくり眺めながら息を止めて顔を近づけた。
ドドドドと心臓の音がうるさい。
彼に聞こえていないだろうかと心配になりながらようやく唇が目的地に到達した。
ちゅ、とただ唇を押し当てただけ。
子どものお遊びのようなキス。
だけど心臓が爆発しそうなほど暴れていて、顔中に熱が集まって今にも卒倒しそう。
「顔真っ赤」
「…っ、だ、だって」
「恥ずかしかった?」
千秋先生に覗き込まれておずおずと頷いた。彼の手が首筋に添えられる。
「でも果穂が頑張ってくれたから俺は嬉しかったけど」
「……だったら、よかったで…っ」
「アウト」
「セーフですよ!あ!」
「はい2回」
「あぁあああっ」
思わず天井を見上げると添えられたままの千秋先生の手が私の頭を固定した。視界いっぱいに飛び込んできた千秋先生の顔面に息を詰める。