千秋先生は極甘彼氏。

  具体的に言えば、法律上、常時使用する従業員が50人以上いる事業場では必ず“産業医”を選任しないといけない。弊社は一応産業医は選任されてはいたものの、ただそれだけで実際に機能されていない状態だった。

 産業医は原則月に一度は企業を訪問し職場内を巡視したり、衛生委員会を開催し健康教育をしたり、不安や悩みのある従業員と面談をしたりとあらゆる健康管理業務に対応することが必要とされている。

 それなのに、訪問もなければ面談もしていない。健康診断の就業判定は辛うじてしてくれているようだけど、それも忘れた頃に返事があるぐらいのいい加減さ。フィックスは大阪と名古屋にも支社があるけど本社がこのような状態なので当然のごとくこちらも何もされていない。

 「これはダメなのでは?」と前任者から引き継いだ方に確認したところ、彼女は忙しくてそこまで手が回っておらず引継ぎ書も目を通さないまま私に引継いだ。「私に聞かれてもわからないから自分で調べてね」と言って。

 よくも今まで労基署から指導が入らなかったもんだと内心恐々としながら情報をかき集め、直属の上司でありフィックスの代表である獅々原真央(ししはらまお)さんにこの件を報告した。

 彼に現行の産業医のことを訊ねてみると「そう言えば」と言った風な様子で「付き合いで紹介されてそのまま選任したんだったな…」と眉間に皺を寄せながら教えてくれた。

 
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