千秋先生は極甘彼氏。

  私が情報収集に走り回っている間に獅々原さんは今の産業医と連絡をとってくれたものの「臨床医としての仕事が忙しく、今以上の業務を求められても対応できない。それなら辞める」と言われた。
 
 つまり辛うじて首の皮一枚繋がっていたものが繋がらなくなってしまう。慌てて複数の紹介会社に資料請求をして電話で状況を説明する。

 そのどの会社からも「すぐにでも産業医の交代した方がいい」とのことだったので本日産業医の先生を実際に紹介してもらうに至った、のだけど。

 千秋先生は怒って帰ってしまわれたのだ。

「これは推測ですが、千秋先生の中で事前情報だけでハードルが上がってしまっていたんだと思います。千秋先生も仰っていましたが福原さんに落ち度はありません。それに企業様によってフローは異なりますので先生のご理解もまだまだ浅かった、といいますか…」

 つまり要約すると、宇多川さんが千秋先生に説明したことにより先生の期待値が上がり、実際に話してみて中身がそぐわなかったことでガッカリしたということだ。

 私も「このままじゃ処罰の対象になるかも」という恐怖のまま突き動かされただけだったので具体的に産業医の先生が交代された後のことまで考えていなかったのも悪かった。

 でもその辺りは実際に契約が始まってからでもよかったのでは?なんて思ったりもしたんだけど千秋先生はそれが気に食わなかったようだ。

 「勝手に期待して失望されてもって思いますよね。あはははは」

 どんどんと頭が下がる私を見て宇多川さんの声がうわずった。半分はあなたのせいでしょう!と言いたいのを堪えたけど、私はどちらかというとあんな凄い人に期待してもらって応えられなかったことに落ち込んだのだ。
 
 
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