千秋先生は極甘彼氏。
気怠い身体に負けて起こしかけた身体をそのままベッドに沈めた。
今何時?といつものようにスマホに手を伸ばす。
…あれ?
いつもあるはずの場所にスマホがない。
不思議に思ってまだ重い瞼を無理やり開ける。一瞬ここがどこか分からなくてフリーズした。
(…あ、そうだ)
いつもの嗅ぎ慣れた匂いではないけれどどこか安心するのは柾哉さんの匂いに包まれていたからだろう。ようやくここがどこで昨夜何があったのか思い出してにやけそうになる口元を布団の中で誤魔化した。
(…あれ?柾哉さんは?)
ずっとひっついていたせいでなんだか寂しい。
私はいつの間にこんなにも寂しがりになったんだと苦笑した。
さっき諦めた身体を起こすという至難の業にもう一度挑む。
気合を入れてえいや、と身体を起こしたのはいいものの、ベッドから降りた途端、脚に力が入らなくて思い切り滑った。
「いたぁっ」
ずでん、とまるでコントのように滑った。しかも裸で彼氏の家。
めちゃ恥ずかしいのに起き上がれない。
(アン●ンマンもこんな気持ちなのかな)
顔が濡れて力が出ない〜と言うセリフをなぜかここで思い出して小さく笑う。自分がひどく間抜けすぎた。
「果穂?」
「あ、柾哉さん」
なんかすごい音したけど、と柾哉さんが来てくれた。
そして裸で座り込んだままの私を見て事情を察したらしい。
「怪我は?」
「だいじょうぶです、でも」
「はいはい」
柾哉さんは私を抱き上げるとベッドの上に座らせてくれた。そして私の荷物を持ってきてくれる。
「何から何まですみません」
「いいえ。歩ける?」
「…うぅ。今はちょっと足に力が入らないかも」
柾哉さんが苦笑する。
「下着は一応洗ってるよ。あのままじゃ着けられないと思って。勝手にごめんね?」
「いえっ!こちらこそすみません」
「全然。パジャマは大丈夫だと思うけど一人で着られる?」
「多分」
「むずかしそうなら手伝うから言って」
綺麗に畳まれたパジャマとカーディガンを受け取って頭を下げた。
昨日脱ぎ散らかしたはずなのに柾哉さんが畳んでくれたんだ。
(下着、もう一組持ってくればよかったかなぁ)
部屋を出ていく柾哉さんを見送って小さく息を吐く。
(でもまたシたら汚れちゃうし…)
それならなしでもいいかな。
私はいそいそとパジャマを着るとしばらくしてよろめきながら柾哉さんのいるリビングに向かった。