千秋先生は極甘彼氏。
千秋柾哉、33歳。日本最高峰の大学の医学部を卒業後同大学病院の精神科に勤務し、今は複数の企業を受け持つ人気の産業医。
この若さでいくつもの学会で論文を発表し、賞を受賞したり、講演会に登壇している。見た目が整っていることもあり、最近は雑誌の取材も受けメディアの露出も増えているらしい。つまりこの業界ではまあまあ有名な先生だ。
そんな殿上人のスケジュールにたまたま空きが出た。アグレッシブでフットワークの軽い先生らしく「何か良い求人があれば」と宇多川さんに連絡をくれた直後に私から連絡があったという。
「宇多川さん、千秋先生のスケジュールはそのまま抑えておいてもらうことはできないでしょうか」
______貴社のような状況では誰がやっても同じ。
そう言われてちょっとというかだいぶ悔しかった。だって勝手に期待して失望されるなんて腹が立つ。
童顔で背も低いせいで舐められやすい私だけど負けん気だけはある。見返してやりたい。
「それは…申し訳ございません。お約束いたしかねます。ちょうどこれからの時期、依頼が増えてくるので千秋先生の希望する条件に合う企業案件がありましたら私以外の担当が紹介しますので」
宇多川さんの正論に項垂れる。
そりゃ、うちよりもポジティブな案件が入ったら紹介するよね。
だってビジネスだし。感情じゃないよね。
「そ、そうですよね…」
「でも、もし福原さんがその気でしたら千秋先生と再度お時間調整することはできますよ」
宇多川さんの言葉に下を向いた頭が上がる。
「先生をギャフンと言わせませんか?そのためのお手伝いなら喜んで引き受けます」
そもそも私の早とちりと言いますか、伝え方が…とモニョモニョ言っていたのは聞かなかったことにする。
だってそれってうちが予想以上にやる気がなかったと聞こえるから。