千秋先生は極甘彼氏。
「申し訳ございません、役員会が少し長引いているようでして」
獅々原さんに声をかけたところ前の予定が延びている旨を伝えられた。
申し訳なく思いながら頭を下げつつも内心は「ふたりきり」でいられることにドキドキしている。
「あぁ、構わないですよ」
パソコンの画面から顔を上げた彼が私を見てにこりと笑う。
その顔がいつもの仕事モードより素に近い気がしてトキメキが止まらない。
…落ち着け、果穂!
「さ、先にはじめましょうか。お時間も限られてますし」
「そう?せっかくふたりきりになれたのに」
千秋先生、いや柾哉さんがとろりとした視線を寄越した。
肘をつき、手の甲に顎を乗せた彼が首を傾げる。
その表情ひとつで腰砕けになりそうになるのを必死に堪えているとクスクスと笑い声が聞こえた。柾哉さんが実に楽しそうに肩を揺らしている。
「ごめんごめん。果穂があまりにも戸惑っていたからつい、ね?」
「つ、ついじゃないです」
「数日ぶりなのに前に会ったのがずっと前みたいに感じてさ。果穂の姿見た瞬間、柄にもなく浮かれたよ」
柾哉さんが眼鏡の奥で瞳をゆるゆると細めた。形の良い眉をへの字にして「どうしようもないね」と苦笑する。
「わ、私も、柾哉さんにあえるの楽しみにしてました」
「…っ」
「でも、お仕事だから真面目にします!」
本当はもう少し色々と話したかったけど、「なんの話してたの?」と獅々原さんに聞かれるとうまく答えられる自信がない。だからこのへんで心を鬼にしてキリッと気持ちを引き締める。
「し、獅々原さんに幻滅されたくないですし!千秋先生にもご迷惑をかけたくないので」
「…そう。じゃあとっとと始めようか」
「はい!」
お願いします、と頭を下げる。
早速本日のスケジュールをお伝えして、いつもの衛生委員会は後回しに変更。先に職場巡視をして、面談希望者がいたので面談をすることに。
その間に獅々原さんはじめ、役員の皆さんがようやく姿を見せたので面談が終わり次第委員会を開催した。