千秋先生は極甘彼氏。
「それは忙しくなるね」
「うん。でも取れたら嬉しいし」
仕事もそこそこに切り上げると私と美雨ちゃんは居酒屋に向かうため、エレベーターに乗り込んだ。早速今日の訪問の内容について報告する。(真面目な話だけ)
今日の委員会で話題になったのは「健康経営優良法人」の取得についてだった。そもそも「健康経営」とは従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題として捉えることをいう。そしてその「健康経営」に取り組んでいる企業の中で特にその取り組みに注力している企業を「健康経営優良法人」と称して表彰される。この表彰を受けた企業は世間に「うちの会社は従業員が健康で働けるような取り組みに力を入れてますよ」とPRできる。
要は企業のイメージアップにもつながり、採用活動も周囲と差別化を図るひとつのポイントになる。
新卒採用担当の美雨ちゃんも、「確かに自社のブランディングもしやすくなるね」とうなづいた。
「でも予定より早いのね」
「そう。千秋先生が“十分取れる可能性はある”って言ってくれたから」
審査制なので100%なんてない。だけど例えとれなくとも、自社ホームページに取り組み内容なども公開することで世の中へのアピールになる。特にフィックスはシステム開発会社。エンジニアが多いため、なんとなくブラックなのでは?という憶測もある。だけどそこをクリアにすれば、優秀な人材にもアピールできるし、何より自社のためにもなる。
「果穂は千秋先生のために頑張るんでしょ?」
「ち、ちがうよ?ちゃんと会社のために頑張るもん」
「ふーん?とか言って、本音は?」
「えへへ♡」
「下心100%とみた」
「100%は言い過ぎ〜」
「じゃあ120%?」
「どうして増えるのぉ」
きゃっきゃと笑いながらエレベーターを降りてセキュリティエリアをくぐった。ビルのエントランスを歩いていると、入り口近くにまばらに配置されているソファに見たことのある人が座っていた。
その女性も私に気づくとソファから腰を上げた。そして素通りしようと思っていた私たちの前に立ちはだかると値踏みするように上から下までじろじろと見られてとても嫌な気分になる。