千秋先生は極甘彼氏。
「福原さん、今すぐ弊社で働けますよ。もし転職考えるなら」
「どさくさに紛れて何てこと言うんですか」
宇多川さんのナイス発言?のおかげで少し救われた気分になる。
返さなくて良くなった。ホッとして獅々原さんを盗み見た。
そんな獅々原さんは宇多川さんに呆れていた。この二人もこの三週間の間に随分仲良くなった気がする。こんな軽い冗談を言い合えるぐらいには気心が知れていた。ちなみに宇多川さんも獅々原さんと同級生だ。33歳。見えない。
「非常に頼もしいです。福原さん、これから頑張りましょう」
千秋先生から手を伸ばされた。ただの握手だとわかっている。それでもそれ以上の邪な気持ちが顔を覗かせてしまうのはなぜだろう。
(て、手汗が…!)
「え、あの、その。不束者ですが」
ズボンの後ろで手のひらを拭いて差し出された手に両手を伸ばす。
「福原さん、それ結婚するみたいだから」
しかし言葉をミスったらしい。獅々原さんに苦笑されてさらに慌てた。
「?!あ、間違えました?えっと、…未熟者ですが?」
「あんまり変わらないでしょ」
獅々原さんの的確なツッコミに顔が熱くなる。千秋先生が楽しそうにクスクス笑っていた。その笑顔がまた反則並みに素敵だ。
(ちょ、笑いすぎじゃないですかね?!可愛いですけど!!)
「失礼します」と言いながら千秋先生の手に両手を添える。
「よ、よろしくお願いしま…っ」
しかし千秋先生からしっかりと握手が返ってた。
手のひらがしっかりと包まれてしまう。
(う、うわぁー、手が!手が…!お、大きい!ってちがーう!!)
一瞬のことだったはずなのに数秒以上に感じたのはきっと胸が高鳴るせいなのか。
頬が熱くて仕方ない。胸が弾けそうになるぐらいドキドキしている。
「ダメダメ」だと思っているのにもう少しこのままで、とか思ってしまった自分が恥ずかしい。手が解かれた瞬間サッと手をひいた。
まだ手のひらに千秋先生の手の感触が残っている。胸の辺りがキューーンとするのは気のせいか。うん気のせいだよね。
(気のせいであって…!!)
何度も呪文のように言い聞かせたのに、それが気のせいじゃなかったと認めるのは次に千秋先生に会ったときのこと。
前回会った時以上にエフェクトがかかっていてキラキラ眩しかった。ソワソワして落ち着かない。どれだけ「違う」と否定しても目の前の神々しさは消えてくれなくてもう無理だと諦めることにしたのが色んなことの始まりだった。