千秋先生は極甘彼氏。
「ねえ、それよりどうして茅野ちゃんがいるの?パパもどういうつもりで連れてきたの?私はまずそこが気になるんだけど」
芳佳さんが話の流れを変えた。少しホッとしたのは仕方ない。柾哉さんを見ればとても不機嫌そうだけど。
「ま、おおかた柾哉が厄介な女性にハマってるとかなんとか言われたんでしょ?別れさせ屋だっけ?それを利用して別れさせてやるって息巻いてたのは知ってるけど、どう見ても邪魔なのは茅野ちゃんだよね?パパもそろそろ現実見て。そもそも私たちに『柾哉と付き合ってる』とか嘘ついていたワケだし、今更どっちを信じるかなんて聞かなくてもわかるでしょ?まぁ、パパも友人の娘さんで、しかも小さい頃から知ってるからってきっと鵜呑みにしてたんだろうけど」
いま初めて聞く事実に私は目を丸くした。
柾哉さんも驚いている。
「…俺は一度も茅野をそういう目で見たことはないが?」
冷たく地を這う声が拒絶した。茅野さんの顔が真っ赤に染まる。徐々に顔を歪ませて涙目で柾哉さんを睨みつけた。
「わ、私の何が劣ってるっていうのよ!そもそも柾哉が悪いんじゃない!この話はずっと前からあったはずよ?」
「定期的に父さんから母さん経由で父さんの唾のついた女性の釣り書きが届いていたけど、そこに茅野の釣り書きはなかったが?なに、俺の知らない水面下でそんな話になってたってこと?」
茅野さんとお父様が目を逸らす。その表情から柾哉さんはなんとなく悟ったようだ。
「話せ。ここですべて話せ!!」
柾哉さんが珍しく感情を荒ぶたせた。茅野さんの顔は青ざめる。
「…ああ、そうだ。柾哉がどの女性も気に入らない、っていうから最終的に沙弓さんに頼んだんだ。いい年してフラフラと甘い考えで仕事をしている息子を引き取ってやってくれ、とな。ついでに外科医の道に戻してくれ、と。そして沙弓さんからはその後柾哉と付き合っている、とも報告を受けていた。このまま順調に進めば結婚も視野にと聞いていた。だが、先日になって厄介な女性にハマって別れを切り出された、と相談された」
「…何を根拠に、勝手なことを」
驚きすぎて言葉も出なかった。私が言葉を無くしてショックを受けているのと同じで柾哉さんも呆れ果てて言葉を失っている様子だ。柾哉さんを見上げれば「ハッ」と鼻で笑った。
「ま、柾哉には才能があるって何度も言ってるでしょう?あなたの立つ場所は企業でも事業場でもない。病院でありオペ室よ。一人でも多くの命を救う、それが外科医の使命で宿命。医師会がそう望んでいる。あなたは医療業界の宝なのよ?あの宇佐美教授も絶賛して、千秋誠一郎の孫で千秋和誠の」
「医師会だかなんだか知らないけど!」
我慢できなくて思わず口を挟んでしまった。
だけど許せなかった。これ以上柾哉さんを否定するお父様も勝手なことを言う茅野さんも。
「これ以上柾哉さんを侮辱するようなことばかり言わないでください!」