千秋先生は極甘彼氏。
昼食会が重苦しい空気にならなかったのはひとえに芳佳さんと由紀子さんのおかげだろう。柾哉さんと柾哉さんのお父様は「あぁ」とか「うん」とかそれはそれはもう照れくさそうに恥ずかしそうに居心地が悪そうにしていたけれど、芳佳さんが構わず、私にアルバムを見せながら色々教えてくれたおかげだ。
私も芳佳さんの意図を汲んで「かわいぃ!!」とか「かっこいい!!」とリアクションとってたけど(素で)途中から由紀子さんがお父様に思い出話をふったりしていたら和やかな空気になってなんとなく丸く収まった、ようだった。
「果穂ちゃん。急なお誘いにもかかわらず、来てくれた上にうちの男どもをあやしてくれてありがとうね」
帰りがけに由紀子さんにめちゃくちゃ感謝された。私が想像していたように、由紀子さんの意見も柾哉さんのお父様は頑なに聞かなかったらしい。
それでも私の言葉にはいくつか考えさせられるものがあったようだ。彼は「次にきた時までに読んでおく」といい、ファイルと雑誌を大事そうに抱えて自室に戻っていった。最後に「またふたりで来なさい」と言葉を残して。
「素直じゃないのよ、あの人は。ずっと敬われて、チヤホヤされて生きてきたから自分に意見を言う人がいると逃げる癖があるの」
年々その癖が強くなって困ってたのよね〜と由紀子さんが笑っている。
「昔は私の言葉をちゃんと聞いてくれていたんだけどね。いつから聞かなくなったのかしら」
「というか、ママが早々に諦めたでしょ」
「あれ?そうだったかしら?」
てへっと可愛らしくおどける由紀子さんに苦笑する。柾哉さんは溜息をつき、芳佳さんは眉を下げた。
「じゃあ帰るから」
「はいはい。気をつけてね。果穂ちゃん、またきてね」
「はい!またアルバムの続きを見せてください」
結局アルバムは10歳で止まってしまった。仕事で忙しい旦那さんのために由紀子さんがせっせと作っていたものらしい。だからよく似た写真もたくさんあるようで、それでも一瞬一瞬の表情が違うからそれはすべて二人にとって宝物のはずだろう。すべての写真が丁寧に柾哉さんを写していたのがその証拠だ。写真の隣に付箋でコメントが貼られていたりととても手の込んだアルバムだった。