千秋先生は極甘彼氏。
本当は中華街に行ったり山下公園でデートしたり、としたかったけど予定より遅くなったし、胸はいっぱいだしちょっと疲れた。なのでそのまま帰ろうと提案する予定だったけど、柾哉さんが「実はホテルを取ってて」と言われてそのままホテルに行くことに。
「中華街で食べ歩いて疲れたりするかなと思って」
「もう、柾哉さんは甘やかしすぎですよ」
「そう?でもこういうところで泊まるの初めてじゃない?」
「そうですけど、嬉しいですけど!」
どうしてこう私を喜ばせることをたくさんするんですか!
私は運転席で涼しい顔してハンドルを握る彼を横目に頬を膨らませた。
かっこいい!かわいい!すき!!
「なに?」
「なんにもない」
「なにもないって顔してないけど」
くすくすと笑う柾哉さんの表情はいつものリラックスした様子だった。
お父様と対立していた彼にとっていくら実家とはいえ安らぐ場所ではなかったのだろう。さっきより彼の纏う空気はゆるんで目つきも優しい。
「…私の彼氏かっこいいなぁ、と思って見てたの」
チラッと見上げれば柾哉さんと目が合った。だけど彼はなぜか苦虫を噛み締めたように苦笑する。
「…それをいうなら果穂だろう?今日ほど自分が情けないと思ったことがないよ。でもそれ以上に嬉しかったんだ」
ありがとう、と続いた声に小さく首を振る。流された甘い視線に微笑みを返せば一瞬だけハンドルから片手を離した彼の手が私の手をぎゅっと握りしめた。
柾哉さんが予約してくれたホテルはハイラグジュアリーな外資系ホテルだった。雑誌やSNSでしか見たことのないホテルのロビーを歩く私は生まれたての子鹿のようにガクブルしている。なんたって、こんなホテルに泊まるなんて心の準備もできていない。つまり挙動不審にもなると理解してほしい。
カウンターでルームキーをもらい、たどり着いた部屋はとても高層階にあった。おまけに部屋に踏み込めばとっても広い。
「ひ、ひろくないですか?!」
「そう?こんなものだよ」
あれかな?私がいつもやっすいビジホユーザーだからかな?
だからこんなにひろく感じるのかしら。
でも待って?寝室だけじゃなくてリビングみたいな部屋あるよ。
普通のホテルってリビングみたいな部屋あるの?
なんかすごく大きなソファーもあるけど普通なの?!
「…常識がわかりません」
「ふふふ。こんな部屋もあるんだ、でいいよ」
そんなものでいいのかな?なんて思いつつ素直に頷いておく。
後から「スィートルーム」と聞いておったまげたのは許してほしい。
まさか自分の人生の中で「スィートルーム」に泊まる日が来るとは思ってもなかったから。