千秋先生は極甘彼氏。
夕食まで時間があるけどどうしようか、なんて話しながらベッドに寝転んだらおやすみ三秒だった。言い訳させてもらえれば昨夜もあまり寝ていない。
その上緊張したり泣いたりしたので身体はやっぱり疲れていたようだ。目をさませば室内は薄暗く、窓の向こうはすでに真っ暗だった。部屋は海側にあったはずなのに、闇に飲み込まれた夜空のよう。
海なのか空なのか分からない外をぼんやりと眺めながら柾哉さんの姿を探す。一緒に寝ていた形跡みたいなものはあるけど、彼は今ここにいない。
「柾哉さん…」
急に心細くなって彼の名前を呼んだ。柾哉さんのベッドよりも跳ねるスプリングの上を這いながら降りる。室内をうろうろとしながら光が差し込む場所へ向かった。眩しくて目を眇める。大きなソファーが鎮座し、同じだけ幅のある艶やかなテーブルの上に一枚のメモを見つけた。
『起きたら連絡して』とは柾哉さんの字だ。
鞄はソファーの上に置かれていた。その中から携帯を取り出す。柾哉さんに連絡しようとアプリを開いた。
『おはよう。起きた?』
「うん。どこにいるの?」
『ディナーの予約でフロントにいた。すぐ戻るよ』
柾哉さんが「ちょっと待ってて」という。私は小さく頷くとソファーに座りこんだ。
時刻を見れば夜の八時を過ぎていた。もしかするとディナーもどこかに予約をしてくれていて、私が起きてこなかったから調整してくれているのかもしれない。
なんとなくそんな気がして申し訳なさが積もる。
(起こしてくれてよかったのになぁ)
なんて思いつつもまだ眠い自分もいてありがたさも感じる。
柾哉さんに大切にされてどんどん欲張りになってるな、と苦笑すると突然部屋のブザーが鳴って飛び跳ねた。
「は、はい?」
『お届け物です。千秋柾哉から福原香穂さんへ』
扉の前で耳をそば立たせれば知っている人の声がした。なのになぜか他人事のような口調なので片目を閉じてドアスコープから覗きこむ。小さな丸穴には柾哉さんが映っていてロックを解除しようとすると焦れたように扉の向こうから声がした。
「果穂、開けて」
「あ、はい」
慌てて部屋の扉を開ける。「お届け物ってなに?」と聞こうとして目の前が真っ赤に染まった。
「え?なに?!え??」
前の前に迫り来る赤に慄いて後ろに下がる。ようやくそれが何か認識できた時には、柾哉さんが片膝をついて私を見上げていた。