千秋先生は極甘彼氏。

 
 それが何を意味するのか考えなくてもわかった。目頭が熱くなって喉の奥が焼けそうになる。胸に込み上げてくる感情を噛み締めるも、頬を伝う涙は止まらなかった。

 「果穂」

 名前を呼ばれただけで胸に甘い何かがじんわりと広がってくる。じわじわと広がる温かさと胸の高鳴りに唇をキュッと引き締めた。

 「俺の誇りで、俺にとって最愛で」

 愛を乞う言葉に、その眼差しに迷いはなかった。あるのはただ純粋な願い。
 
 _______私じゃなくてもいいですよね?

 冷ややかな笑顔の裏にこもる情熱に負けたくなかった。
 勝手に期待して落ち込まれて見返したかった。認めてほしかった。
 そしてもっと意地悪な人かと思っていたのに、簡単に頭を下げて認めてくれた。

 _________すごいですね

 たった一言で陥落したあの日から、私は柾哉さんのことが知りたくて、夢中で彼のインタビュー記事を読み漁った。論文も取り寄せて読んだ。半分ぐらいよくわからなかったけど、それでも彼が何をしたいか、何を目指したいか理解できた。

 もっともっと近づきたくて、いつか彼の隣に立ちたいという思いを抱くのは時間の問題だったと思う。二週間に一度しか会わない彼にどうやったら振り向いてもらえるだろう、と恋愛経験のない頭で捻り出して話題を探した。

 それでも雑誌でインタビューを受けるほどキャリアのある彼とどこにでもいる普通の会社員が付き合うだなんて、と諦めもあった。ましては学歴も育ってきた環境も違う。とても遠い人だ。

 「どうか未来を共に歩んでくれませんか。俺と結婚してください」
  
 だけど柾哉さんはそんな私を生涯の伴侶に望んでくれた。選んでくれた。その迷いのない愛情と誠実な言葉に返せるものは同等の愛と誠意。

 差し出された花束を震える手で受け取った。花束の向こう側で少し緊張した面持ちに愛しい人に微笑みかける
 
 「…不束者ですが、よろしくお願いいたします」
 
 いつぞやと同じ言葉を伝えれば、柾哉さんが安堵と喜びをたたえて顔をくしゃくしゃにして破顔した。私を見つめる彼の瞳はひどく愛しげでうっすらと光の膜がかかっていた。

 
 

 
 

 
 
 
 
 
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