やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない
 その物言いに我慢がならなかったのか。
 すっと怒りを収めて無表情になったオルが、私に手を伸ばしてきた。
 彼のような美しいひとが無表情になると、人間味がなくなって本当に怖い。


 私はどれ程オルを怒らせたいのか。
 彼が私の方へ伸ばしてきた手を叩き落とした。
 その手が何をしたかったのか、分からないまま。

 怒りに任せて、殴ろうとしたのか。
 抱き寄せて、なだめて誤魔化そうとしたのか。




「……ディナ、もういい、泣くな」

「泣いてない!」

「君は……本当に君は憎らしい程、頭も口もよく回る。
 こんなに生意気で面倒くさいディナには、その価値はあるよ」


 そう言われて、また伸ばしてきた手を受け入れた私は本当に簡単な女だ。
 オルは私の涙を拭おうとして、手を伸ばして来ていた。



「これから3年前に戻ってからどうなるのか、俺にも分からないから何も答えられない。
 それこそ戻ってきて、それを報告した魔法士が居ないからだ。
 直後に消滅するのか、神に疎まれ続けながら生きていけるのか。
 確かなのは、もう戻れないことだ。
 俺は29の君の元にはもう戻れない」

「だったら、もう一度頼んだら?
 今だったら、3年前に戻って16の私をやり直すから!」


 オルが消えてしまうのは耐えられない。


 私を死なせないために、簡単にそれを選択する彼が。

 私は許せない。
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