やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない
 無詠唱で3年前に。
 これは逃げる気だ、と思った。
 咄嗟に足が動いて、手が伸びた、彼の方へ。

 自分でもどうしてそんなに素早く動けたのか分からない。
 一気に近付いた私を巻き込むことを恐れたのか、オルが静止して。
 私がオルのバスローブの端を掴まえることに成功した、その時だった。


 またもや、私の部屋のドアが強く叩かれた。
 あのジャガイモが、性懲りもなくまた来たのかと思った。 

 オルもそう思ったのか、今度こそ手を出しそうな勢いで彼がドアを開けたら、そこに居たのは息も絶え絶えなフィリップスさんだった。


「あ……あ……あぁー、よかった……ヴィオン、まだ居た……」

 まだ居るんだ、と怒られるのではなく。
 どうして、居てよかった?


 余程急いで来たのか、11月だと言うのに、フィリップスさんは汗を流して。
 ネクタイは捩れて、ハットもステッキも無し。
 紙袋ひとつだけを手にしている。

 オルが差し出した冷たい水を一気に飲み干したフィリップスさんは私に言った。
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