やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない
 最後に商品を見せていただくためにベイカーさんと売場へ歩いていたら、
『お前!』と言われた気がして、声がした方を見た。


 イートインのホール入口にシドニーとゲイン、ふたりの女性が立ってこちらを見ていた。
 声をかけてきたのはゲインだと思う。


「お前、ここまで付いてきたのかよ」

「……いいえ、違いますが」

「は? 嘘をつくなよ!」


 何を言ってるのか。
 予約もなく、店内に入れるわけがないのに。
 ゲインの頭の悪さに腹も立たない。
 こんな馬鹿野郎だから、ファーストネームで呼んで貰えないんだ。 


 人が否定しているのを聞け。
 そしてもう少し場所を考えてから、口に出せ。
 ここは学院の食堂じゃない。
 3年生でも学院外では神様じゃない。
 高等学院の制服が泣く。


 一見して関係者とはわからないスーツ姿のベイカーさんの冷たい眼差しに、同伴している3年生の女子が気付いて、黙るようにゲインの服を引っ張った。



 シドニー本人が私をどう思ったのかは分からない。
 彼はただ見ているだけ。
 食堂では睨まれたように感じたけれど、今はそんな感じではない。
 まるで、自分は関係ない、どうでもいい、という感じ。


 その投げやりな雰囲気は、私が知っていたシドニー・ハイパーとは違う人物のように見えた。
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