やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない
 電話を終えた後、立っていられなくてその場にしゃがみこんでしまった。

 シドニーが本物じゃない?
 あのシドニー・ハイパーが偽者なら、どこかに本物が居るの? 


 深呼吸を何度もして、気持ちを落ち着かせた。
 詳しくは聞けていないが、それでなのか、と腑に落ちた。

 何故か彼は王都に実家のタウンハウスがあるのに、高等学院の学生寮に入り、大学生になってからは友人と借りたシェアハウスに住んでいた。
 実家が困窮していたのなら、自宅から通学させた方が経済的だろうに、と疑問に思っていたから。

 となると、偽りの家族と一緒に住みたくなかった偽者の彼は、寮費や家賃を稼ぐために、配達の仕事をしているのだろうか。


 張りぼて高位貴族のジャガイモ王子、と今回は内心馬鹿にしていた私だったが、それを聞いて複雑な気持ちになった。
 決して気を許した訳じゃない。

 ……許した訳じゃないけど……ただ、私も働く男性を悪く思えないだけだ。
 詳しい話は、今週土曜日に分かる。


 ◇◇◇


 夕食後、初出勤の様子をメリッサが教えてくれた。
 今回の研修はヒューゴさんが担当していて、ずっと立ち会うらしい。
 ……会長が現場に毎回居るなんて、講師の方に同情してしまう。


 私の苦笑いになど気付かないメリッサが教えてくれる。
 彼女以外のドアガールの5人は、元々ホテルで働いていた女性達で、新しい仕事に立候補してきた方だと言う。
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