やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない
 祖父の邸で出された夕食のメインは、兎のローストだ。
 幼い頃の私の大好物だったが、長い間食べていなかった。


 鴨が大好きなモニカに『兎を食べるの?可哀想だわ!』と泣かれてから、我が家では兎を食べなくなっていた。
 鳥も兎も生命に変わりはないのに、母がそう決めたのだ。
『ひとりでも、食べられないひとがいるのだから、我慢しましょうね』だったな。

 今から思い返すと、笑ってしまう。
 ……あの日の母の言葉さえ、はっきり思い出せるなんて。


「ジェリ、どうした?」

「いえ……食べ物の恨みは恐ろしい、ですね」


 恨みを忘れていなかった私は、笑っていたみたい。
 自分で思っているより、私は気持ちが直ぐに顔に出る質らしい。
 最近は『泣きそうな顔をしている』と、子供のクララやオルにまで言われているし、気を付けないと……


 シドニーの話はメインだから、食後に話そう、と祖父が食事中に出してきた話題はドアガールの話だった。
 彼の話は給仕が居る前では話せない内容だからなのね。
 ドアガールの研修について、思い付いたことを話してくれ、と言われる。


「周辺の有名料理店の人気メニューも把握しないといけない、と聞いたのですが。
 ホテルから少し歩くと、今は有名ではないけれど3年後には人気が出る飲食店が何軒かあるんです。
 3丁目の角にダンスホールが出来て、遊びに行く前に腹拵えとして通う安くて美味しい料理を出すお店で」

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