やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない
 ……引き剥がそうとしたのに、彼女の抱きかたが優しくて。
 意外にしっくりきて、気持ちよく腕の中に居たのが恥ずかしくて、離れ際に誤魔化すように、無愛想に聞いてしまった。


「貴女の名前は?」


 今更だが、魔女の名前を知りたいと思った。
 恋人に一途なのに、そのひとと結婚もせず。
 共に暮らしてくれている親友の魔女に、ようやく尋ねた。


「あたしは……シア、シア・ヴィオンよ」

「シア、昨夜貴女と知り合ったことで、私は助けて貰えたの?」

「ディナを足止めして、回避は出来たの」

「……」

「あたしがぶつかってでも、貴女を足止めしたかったのは。
 そうしないと、通りの先で貴女は酔っぱらい同士の喧嘩のとばっちりを受けてしまうところだったからよ」


『酔っぱらい同士の喧嘩は流血を伴う凄惨なものに発展することが多い』とフィリップスさんが話していたのを思い出した。


 パピーがぶつかって来なければ、喧嘩のとばっちりを受けて、私も血を流すほどの怪我をするところだったの?
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