沼甘総長は、左手の薬指を独占したい
「ほっ…本当にお願いします。歩はまだ小学生で。ほんといい子で。なにも関係なくて……」
「これ以上総長に近づいたら弟がどうなるか、バカな頭で必死に考えな!」
暴走族のお姫様は怒鳴り声を響かせると、私を思いきりつき飛ばした。
歩道に尻もちをついた私。
コンクリートにこすりつけられたせいで、太ももの広範囲から血がにじみ出てくる。
「みんな、行くぞ」
強面の女子達が私の視界から消え
「怖かったぁ~」
安堵のため息とともに、本音をやっと口から吐き出せた。
「っつ……痛いっ……」
血がにじみ出る太もも。
ズキズキと傷口が疼くけれど、この痛みまだマシなほう。
なんとか耐えられる。
ナイフをぐっさぐさに突き刺されたように激しく痛むのは、私の心の方で。
「……言ってよ、彼女がいるなら。
大好きになっちゃったのに。
東条くんのこと……」
悲しみがあふれてきて、目から涙がこぼれちゃった。