スパダリ煎茶家は、かりそめ令嬢を溺愛包囲して娶りたい。
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「……じゃあ、千愛さん。俺は帰るね。お疲れ様でした」
閉店作業で暖簾を片付けて中に入ると瑛一さんがひょこっと厨房から顔を出して言った。
「お疲れ様でした。また」
婚約者と言ってもお父さんがどうしてもと頼み込んで婚約してもらったみたいだからとても申し訳ない気持ちでいっぱいになるけど彼から不満も何も聞かないから少しだけ不安だ。
肝心の父は、今は入院中。腰を痛めて病院に行ったら検査をさせられて病気が見つかったのだ……だから、もし父が亡くなったらこの婚約はどうなるんだろう。婚約がなくなれば、職人は一人もいないわけだからここは無くなってしまうんだろうなぁ……
そんなことを考えながら私はお店の鍵をかけて、外に出た。外に出れば夕焼けが綺麗だった。