LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
「気になったものがあれば、おっしゃっていただければお出しします」

「じゃあ、これを」

 シンプルなデザインのものを瑶煌は示した。

 藍が取り出すと、瑶煌はそれを手に取る。

「はめたときにどうなるのか、見てみたいな。ちょっと手を貸して」

「は、はい……」

 どう貸すのかわからず右手を差し出す。

「左手を」

 慌てて左手を出す。

 瑶煌はその手をとり、薬指にスッと指輪をはめた。

「似合ってる」

 瑶煌は藍の目を見て言った。

 藍は慌てて目をそらす。

「こ、こんなお客さん、本当にいるんですか」

「さあ、どうかな。俺は遭遇(そうぐう)したことないな」

「ひ、ひどい」

 心臓が爆発しそうなくらいに脈うってるのに。ただからかわれただけなんて。

「セ、セクハラじゃないでしょうか?」

 声が裏返ってしまう。

「嫌だった?」

 困惑したような、だけど優しい声。

 嫌だ、とは言えなかった。だけど、こんなにドキドキさせられて、なのに店長はまったく気にもしてなくて。こんな聞き方ずるい、と藍は思う。

「君が嫌ならやめるよ」

 瑶煌の手が離れた。瑶煌の体温が藍の手から消えて、ホッとすると同時に寂しい気持ちがしてしまう。

 藍は指輪をはずしてトレイにのせる。

「け、結婚指輪はご検討じゃないですか」

 復讐してやる、と藍は思う。

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