LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
「緑の石、これは何?」

 瑶煌が聞いて来た。

「アベンチュリンです。翡翠川さんの翡翠の緑にちなみました」

 本当は翡翠がよかったのだが、店頭には白っぽいものが多く、あまり翡翠に見えなかったからやめたのだ。

 実際のところ、藍は緑の石よりムーストーンが気になっていた。最初の印象が月のようだと思ったから。

 アベンチュリンとムーストーンの両方を買い、迷った挙句にアベンチュリンを使った。

 ほかのみんなは名前にちなんでいるのに、一人だけ印象で作る気にはなれなかった。

「そうなんだ。ありがとう」

 アベンチュリンでまた怒涛(どとう)の解説が始まるかと身構えたが、意外にあっさりしていた。半貴石だからだろうか。

 やってるとこ見せて、と直哉は瑶煌と共に工房に消える。

 瑠璃はふいに藍の顔を見て、顔をしかめた。

「そんな夜店で売ってそうなピアス、すぐはずしてくれる? お店の品位に関わるわ」

 確かにクオリティは高くない。だが、そこまで言うか。

「よく見ると100均のほうがマシなレベル。そんなのよくつけてこようと思ったわね」

 と付け加えた。

「……すみません」

 藍はピアスをはずした。

 悔しさが胸に広がる。こちらがどれだけ歩み寄ろうとしても、当たり前のように拒絶。いや、拒絶ならまだいい。突き落としてくる。

 窓の外を見ると、いつの間にかどんより曇っていた。

 やっぱり気持ちのジェットコース―ターになる、と藍はため息をついた。今なら下手な絶叫マシーンより絶叫できる気がした。





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