LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
「愚息がご迷惑をおかけしてもうしわけない」

 彼は深々と頭を下げた。

「愚息がもっとしっかり防犯に気を遣っていたらこんなことにならなかった」

「そんな」

 完璧に犯罪を予防するなど無理だろう。それが手段を選ばない強盗ならなおさら。

「責任者は従業員を守る責任と義務がある。それができなかったのは愚息の不徳だ」

 経営者らしい重々しい言い方だった。

 困ったように瑶煌を見ると、瑶煌は悔しそうに床を睨み付けている。

 いつにない表情に、藍はさらに困惑した。

「もう店は閉めさせる。本当に申し訳なかった」

「勝手に決めるな!」

 瑶煌が声を荒げる。

「ここは病院だぞ。静かにしないか」

「お前が勝手に決めるから――!」

「聞けば、お前が出しっぱなしにしたお客様のダイヤを守ろうとしてケガを負ったというではないか」

 瑶煌は反論できない。

「そんな程度にしか店を運営できないなら、やはりやめてしまったほうがいいな。お嬢さん、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ない」

 彼は再度、頭を下げる。

「店長は悪くないです。私が勝手にやったことです」

「優しい方ですね」

 巧は微笑んだ。どことなく瑶煌に似ている、と藍は思った。

 彼は内ポケットに手を入れると封筒を藍に差し出した。

「受け取れません」

「ぜひ受け取ってください」

 巧は封筒を藍の枕元に置くと、

「うちに戻れ。いいな」

 瑶煌に命じて去って行った。

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