LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜

 そうしてそれは、彼の最初で最後のプレゼントになってしまった。

 思い出はいつでも彼に優しく寄り添ってくれた。

 だが。

『いつか、本物のブルースカイストーンをプレゼントする。おれがデザインしたやつ』

 かつての無邪気な約束は、今残酷に彼の胸をえぐる。もう叶うことのない約束。

 母は父からDVを受けていた。

 ひそかに脱出するための引っ越しだった。

 だからそれは彼にも当日まで告げられなかった。

 最初、事情をわかってなかった彼は母を責めた。

 学校の友達にも習い事の友達にも別れを告げられなかった。

 母は泣きわめく彼を抱きしめ、ごめんね、と一緒に涙を流した。

「生きていればまたいつか会えるから」

 命の危険を感じるほどの暴力を、母は受けていたのだ。彼の前では良い父を演じ、巧妙に服で隠れる部分だけを殴ったり蹴ったりする父。傷跡は服で隠され、当時の彼はまったく気付いていなかった。

 逃げるための引っ越しはやむをえないことだった、と今の彼にはわかる。

 だから二人とも生きていられた。

 そして、藍に再会できた。

 もうそれだけでいい。

 瑶煌は振り返った。

 白く大きな病院が、青い空を背にそびえていた。
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