LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
 凡庸な言葉ではきっと直哉には届かない。死にたいほど苦しんでいる彼に、こんなありきたりの言葉が届くわけがない。

 何か直哉を止める言葉を、何か。

 焦れば焦るほど、言葉は出てこない。

「あなたが死んだら悲しむ人がいます」

「藍ちゃんは悲しんでくれる?」

「当然です」

「君の目の前で死ねば、俺は君の記憶には残れるのかな」

「そんなこと言わないで」

 ああ、これではまた直哉の気持ちを否定したことにならないだろうか。

 何か、言葉を。

 だが、自分の言葉なんかで彼を救うことができるのか?

 焦燥する藍の目に、事務所との扉がそっと静かに開くのが見えた。

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