LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
「君自身に気づいてもらいたかった。覚えてないと言われたらショックだから。情けないけど、勇気がなかったんだ」

「そう……なの」

 いつも悠然と構えているように見えたのに。

 そんな瑶煌ですら、勇気がなかったという。

「だけど、君がいる。君が俺に勇気をくれたんだ」

 藍の目が潤んだ。

 同じことを思った。あのときに。

「これを」

 瑶煌は藍にケースを差し出した。ジュエリーが入っていそうな、藍色のベルベット調のケース。指輪のケースよりは大きく、ネックレスのケースよりは小さい。

 藍が受け取ると、瑶煌は言った。

「直哉には勢いでああ言ったけど、本当に店を再開するか、迷っていたんだ。それで、賭けをした。完成が間に合って君にこれを渡せたら、店を再開するって」

 藍は顔を輝かせた。

「じゃあ……」

 じゃあ、また会いに行ける。

 ちょっと遠くなってしまうけど。

 もう、勇気はちゃんとあるから。

「またがんばってみる」

「応援してる」

 藍は精一杯の笑顔を浮かべた。

 泣きたくはないのに、涙がこぼれてしまう。

「泣かないで、藍」

 瑶煌の指がやさしく藍の涙を拭う。

「開けてみて」

 そう言われても、片手では開けられない。

 瑶煌に手伝ってもらってケースのフタを開ける。

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